ピースオブケイク

Winnyのピースオブケイクのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.1
東出昌大はコンフィデンスマンシリーズのちょっと天然系のバカっぽい演技が好きだけど、本作ではあのWinnyを開発した稀代の天才プログラマー金子勇さんを演じ、実のお姉さんから、「勇ちゃんがいる!」と言わせたいうから凄い。相当ストイックに金子さんに向き合われたのでしょう。どうしても私生活が気になっちゃうけど、やっぱ俳優さんとしては好きだなー。

実際に裁判を経験された弁護士さんの模擬裁判による演技指導が入念に行われたということで、法廷シーンがとにかくリアルなのが見どころ。特に、伝説と言われている吹越満演じる秋田弁護士による反対尋問は迫力がある。証人に言い訳をさせてはいけないので、証人の大事な証言をピン止めしたうえで矛盾を突き付け、それ以上は追及しないことを繰り返していくことで証言が信用できないことを浮き彫りにしていく、らしい。ウソつきに、うまーくウソをつかせて、やっぱりそれはムリあるでしょう、と指摘するんやね。めちゃくちゃ入念に準備して、相手がこう出たらああする、みたいなことを何回も練習して、本番で確実に相手を追い詰めて行く。裁判はライブだ!と吹越満が言ってたけど、すごく説得力があった。

この裁判は社会的にも物凄く注目されたけど、この映画では、第1審で有罪判決(罰金150万円)となるところまでしか詳しくは描かれておらず、高裁、最高裁で無罪判決が宣告される経過については描かれていない。なので、法廷ものの王道の、正義が勝つ的なスッキリ感はあまりなく、むしろ、喪失感の方が大きい。稀代の天才プログラマー金子さんが、本当なら一番能力を発揮できたであろう7年間を、裁判によって奪われプログラム開発が全くできなかったこと。この失われた7年間でどのくらいの社会貢献への機会損失があったのかは誰にもわからない。第二の金子さんが出ないようにという意味で、Winny事件の無罪判決の意義は大きかったと思う。

弁護団を率いた壇弁護士を演じた三浦貴大、不当逮捕、文書偽造など検察の裏の顔を演じた渡辺いっけいの演技も素晴らしかった。