Junichi

犬王のJunichiのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.0
見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮

藤原定家

【作画】10
【演出】5
【脚本】7
【音楽】8
【思想】10

呪われた者たちによる成仏の物語
爆音映画祭で観劇

観阿弥、世阿弥と同時代の能楽師
犬王(道阿弥)と
盲目の琵琶法師
友魚の物語

父親の美の犠牲となり
異形な者として生まれた犬王

平家の呪いを受け
盲目となった友魚
 
呪いを受けた二人が京都で出会うことで
呪いをかけた者の霊魂を成仏させるための新たな能楽を作っていく

世阿弥が能楽に幽玄味を加えたように
犬王と友魚の能楽は
QUEENを彷彿とさせる
ロック調で表現される
(ここの演出は好みが別れるところ)

犬王の近江申楽に基づく能楽が民衆に受け入れられるごとに
犬王の異形の見た目が正常になっていく
斬新さが受け入れられ
ポピュラーになることと比例するかのように

しかしながら
時の将軍足利義満は
世阿弥の能楽を好み
犬王と友魚の能楽を禁止する

琵琶の演奏を禁じられた友魚は
あくまで自分の音楽を貫き通す

義満に認められた犬王は
義満のために舞い唄うことを誓うも
自分の能楽を後世に残すことはなかった

これは犬王の抵抗なのかもしれません
至高の芸術を自分一代で終わらせ
後世まで残さないことで
人類全体に復讐する

犬王が友魚の元に戻ってくるのに600年かかったのも
この復讐ゆえかもしれません

室町時代から600年後の現代
友魚と再会した犬王は
幼い頃の異形の姿に戻っています
友魚も
幼い頃に犬王と初めて出会った姿に戻っています

二人の魂がここでようやく成仏へと向きます
成仏を舞台で実現させる者たちの魂の成仏

救う者こそが救われて欲しい
近頃よく思います

成仏を願うすべての魂の持ち主に
本作品をオススメします
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