ぶみ

生きるのぶみのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
3.0
いのち短かし、恋せよ乙女。

黒澤明監督、志村喬主演によるドラマ。
市役所に勤める主人公が、胃がんに冒されていることを知り、人生を見つめ直す姿を描く。
オリヴァー・ハーマナス監督、ビル・ナイ主演によるリメイク版『生きる LIVING』は鑑賞済み。
主人公となる市役所の市民課長を志村、彼の部下で転職を考えている小田切とよを小田切みきが演じているほか、金子信雄、左卜全、中村伸郎、伊藤雄之助、菅井きん等が登場。
物語は、三十年間無欠勤の市民課長・渡邊が死を目前として変化していく様が描かれるのだが、冒頭、何が映っているのかと思いきや、渡邊の胃をレントゲンで撮った写真だったという、なかなか斬新なシーンでスタート。
以降、やる気のない仕事風景が登場したり、世捨て人のような小説家に連れられ夜の街を巡ったりと、先に観たリメイク版と同じような展開となっていたため、リメイク版が、いかにオリジナルをリスペクトしていたかが理解できたところ。
また、三輪トラックやボンネットバスが、ガタガタと舗装されていない道路を進む様子は、戦後数年経過した当時の日本の記録映像として興味深かったのに加え、終盤にあるお通夜のシーンも、これまた先程と同様、もうあまり見られなくなった懐かしさ満点の雰囲気が漂っていて、思わず昔はこうだったなと感じた次第。
残念ながら、録音の技術が未発達なせいか、それともそもそもの滑舌が悪いのかはわからないが、あまり良く聞き取れないやり取りが結構あったことと、当時のトレンドなのか、何か喋った後の台詞に「つまり」や「しかしながら」といった接続詞がやたら多く、説明的になっていたのは気になったポイント。
テーマは明確であることから、日々を丁寧に生きることの大切さが伝わってくる内容であり、リメイク版同様、ラストのブランコの切なさは、名シーンであることを再認識するとともに、既に70年以上も経過している作品であるため、もはや当時の日本の記録映像的な側面が強く、セクショナリズムに塗れ、誰を向いて仕事をしているのかわからない一部の公務員像は、今も昔も変わらないなと思う一作。

哺乳類の中で、一番欲が深い。
ぶみ

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