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魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たちのbのレビュー・感想・評価

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ロシア映画への理解がまだまだ浅いので少し
まず監督のイゴールバラノフ氏について書いておきたいです
彼は88年生まれで出生はソ連になってますけど(ソ連が崩壊したのは91年)もうソ連を知らない今の若い世代でソ連というものを学校のテキストで習った世代
90年代初頭の生まれの人たちが(日本言えば平成初期生まれ)今はだいたいもう20代後半、30代前半あたりであってソ連の影響を受けていない映画監督が結果を出しておかしくないという頃に出てきたのがこのゴーゴリなんですよね

脚本家のアレクセイからもらった脚本を読んでまだバラノフ監督はゴーゴリのルーツを探る物語に惹かれて監督をするにいたったという

監督はロシアの映画学校を卒業している人で引き出しの多さも伺えます
例えば終盤の主人公たちが空中で円を描くように振り回されるシーンはピーターパン(1926年)のパロディであると思われるし
亡くなった両親が夢魔的に主人公のゴーゴリの前に登場するイメージはフェリーニの8 2/1からだと断言できる(これはまた後に)
往年の有名なクラシック映画を押さえてきてるなと思えば豚のお面を被った殺人鬼が襲い来るとかホラー映画ファンならすぐに検討がつくジャンル映画のパロディが(監督の世代的にリアルタイムだろう)あったりするし貪欲な意欲作なのは間違いないし全体的に贅沢な作りになってる

もちろん過去の自国のロシア、ソ連時代映画のパロディもあったりして、例えば赤い服のくだりです。多分あれはソ連時代か過去のロシア映画だと思うけど謎すぎて元ネタはよくわからないという意味でも怖い。ロシアやソ連時代の自国パロディだけは勘弁してほしいと思いつつ2部にはソ連時代のカルト映画、妖婆 死棺の呪いが引用されてたりなんとかわかるものもあった。


チープな作りは若年層を意識した結果。でもジュブナイルものにならないギリギリのところでとどまってる感じで変にオシャレにしようとせずに野蛮な場面を盛り込んでる。
冒頭、悪漢たちが女性のお尻をペンペンするというオープニングから「今から始まるのは非常に野蛮でえげつない話」と教えてくるもので、まず帝政ロシア時代のド田舎という深淵が良い
ゴーゴリとリザの不倫チックな関係やその他もろもろがっつりホラーな描写、撮り方とかライティングとか挙げれるけどロシア映画界の大御所、オレグメンシコフが主演していることを特に指摘しておきたい。
日本のある探偵ドラマに出てくる探偵に似てるこの人はハリウッドからのオファーを蹴りまくることで知られていて過去にショーン・ペン?本人からのオファーも蹴ったとかでアメリカ映画界からも一目置かれてるとか。本人はブロックバスター系の映画が単に嫌いでちゃんとした脚本なら喜んで出るとインタビューで答えてるのだけど。ハムレットが好きらしくて、最後の3部目にあるハムレットを唐突に引き合いに出すセリフは多分、彼本人のアドリブです。
何回かあるメタ発言や事件を解決しようとしている姿は「一早くこの漫画みたいな世界から出たい」という風にみえていちいち気になる

そして主演のアレクサンダーペトフといえば例の戦車映画でも主演をはっていた人。この人にもちょっと書くと大学生時代にアメフト部だったかな?に入っていて試合中だったか練習中だったかのときに頭にボールが直撃してその場でぶっ倒れた後、医者からドクターストップがかかってスポーツができなくなったことをきっかけに映画の世界に興味を持つようになっていったんだとか
彼自身は体育会系で他のフィルモグラフィーを見てもゴーゴリみたいな陰キャな文系男子で血を見ただけでダメという臆病なキャラというのはかなり挑戦的だったはず
この話のなかでゴーゴリが未来予知をするたびにその反動でぶっ倒れる(三部通しで観たらかなりの回数、倒れる)という演技がボールが頭に当たって倒れたという彼の経験が反映されているといえそう。



モデルになったニコライゴーゴリ自身もまあ相当変わった人です。
というかだからモデルに選ばれるのだけど調べる限り潔癖症っぽいところがあったりジェンダー面で問題を抱えてたりしたところが何か今時でもある

彼のその辺を説明するための描写に確かカタツムリを汚らわしい感じで窓からポイっと逃がしたりするシーンがあった
カタツムリ=ゴーゴリ自身
のろのろ動くしかできず両性具有であるカタツムリに自己投影している場面で彼という人間がさりげなく説明されてる
単にカタツムリが嫌だから触りたくないというシーンなら入れない
ただカタツムリは何も悪くありません

主人公ぽくない人を主人公にするのは結構他の映画にもみられる傾向



ヒロインのリザはゴーゴリの小説に出てくるルイーザという女性の名前の捩りです
82/1に登場する主人公の奥さんの名前も同じルイーザで偶然の一致かどうかはともかく8 2/1と似ている場面もあれば影響があると思って間違いないと思います

リザに介抱されてる際に自分が創作した女性の名前(ルイーザ)を寝言で呼んでるなんて
この人、現代に生きてたら間違いなく二次元オタクだったでしょうね


ロシア映画は他国からの影響を受け付けて来なかったからかあまり見たことがない斬新で変わったカメラワークが要所要所アリ

公開当時は国内で批判が一部あったらしい。そのうちの一つにゴーゴリ役が本人と似てないというものがあって、ゴーゴリ本人の肖像画と見比べるとほんと似てなかった
ゴーゴリはロシアじゃ高校ぐらいに皆習う歴史上の人物らしくてロシアだと誰でも知ってるらしいけど日本やほかの国じゃまあそんなに知られてる人じゃないし特に先入観なく見れる
もっぱらあの巨大の国の小説家といえばドストエフスキーやトルストイで帝政ロシア時代の小説家を、しかも日本の実在した小説家がなぜか特殊能力を有してる文豪ストレイドッグスのようないわゆる異能もののようなものとして描いてくのは斜め上過ぎて面白かった

ロシア人による娯楽映画を嫌うロシアの保守勢にとって批判は相変わらずって感じですけど公開2週目で興行1位にいったという事実はロシア人はロシア人自身が作ったロシア的な娯楽映画を望んでいるのを裏付けたといえそう



映画の主演層の平均年齢は若くて、ゴーゴリ役のアレクサンダーは89年生まれ、リザ役の人は96年生まれ、口より先に手がでるビンフ所長は91年生まれ、etc
ダークな世界観だからフレッシュとはいいがたいのだけど何か新しいものを作ってやろうという情熱的なものがあったしロシアからこういった映画がでてくるという意外性も相まって面白かった
邦題に関しては何も言わないようにしてきた自分でもこれに関してはちょっと口を酸っぱくして言うと、例えばハリーポッター賢者の石の前に”魔法学生”という題がつくようなもので「魔法学生ハリーポッター賢者の石」とつけているようなものですかね
自分がwowowの初回放送(多分日本国内で最速の放送)で観たときは魔界探偵なんてなくてゴーゴリだけだったのでぜい肉がついた感じになってしまって少し残念
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