YouKey

ベル・エポックでもう一度のYouKeyのレビュー・感想・評価

ベル・エポックでもう一度(2019年製作の映画)
4.1
 製作年度が2019年。大作封切りが軒並み延期にならなければ劇場未公開、フランス映画祭での公開かDVDリリースのみで終わっていたかもしれない作品のひとつ。当たりが多いキノフィルムズ配給。

 映画の中で映画(やテレビ番組)を作るとか観るとか映画がオンエアされているとかいう設定が好きなので、映画のセットを使って自分がかつて過ごした日々をリクエスト通りに再現するというやや後ろ向きに感じる話でも、観たいリストに放り込んでおき帰国後まで上映延長してくれと念じていたらば、なんと今週末で上映三ヶ月目!8月20日ごろから上映館が増えるのが嬉しい。しかもキャストをよく見たら主演はダニエル・オートゥイユとファニー・アルダンという80年代以降のフランスを代表するような強力コンビ!

 売れっ子アナログ・イラストレーターだったヴィクトルは仕事の契約を切られ失業中、配偶者のマリアンヌとの間もギスギスしてうまくいかない日々を送るなか、息子からいつでも戻りたい日を選んで再現、体験できるというパッケージのチケットを贈られる。ヴィクトルの希望は、1970年代のパリ。

 ではなくてフランス第二の都市、リヨン!猫も杓子も人魚ものパリでなく、リヨン!なんでこんなにみんなパリが好きなんだろうと行くわけもないのにカンヌ国際映画祭の青空満載レポート画像を眺めて『いいねぇ夏の欧州は』と思うだけになってしまったこの頃、嬉しいじゃあないですか。たまにはパリ以外の街のお話も観たいわ。

 人生というステージで再度主役を演じようというヴィクトルのために用意されたセットがデジタル時代へついていっていないヴィクトル自身のように凝っている、というよりアナクロ、よく言ってアナログだがしっかり作り込まれている。すれ違う人々もフランス時代劇のようなコスチュームを着ていたりして、『現場〜!』な空気に胸が躍った。イッちゃってる人々が集う場所でも、映画作りの現場は自分と無縁だから楽しいんだろうな。

 さてヴィクトルが『戻った』1970年代のフランス。
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/05-23/nakata.pdf
 フランスとて例外ではなく50年代60年代70年代とごちゃごちゃが続き第二次世界大戦後はかつての宗主国として植民地問題からインドシナ戦争、ヴェトナムからの撤退、ぐちゃぐちゃのアルジェリア戦争と続いてド・ゴール将軍が元首になると今度は学生が主体で自由、平等、性の3点セット解放を訴え運動を展開、とりわけ1968年5月の「5月革命」は最も政権側と激しいぶつかり合いとなった。

 ヴィクトルがイラストに描いた当時のマリアンヌを演じる女優のマルゴはいかにもフランス・ギャルという装いで、しかし言うことをよく聞いているとただの女子学生ではない、女性の権利を主張する男性にとっては『めんどくさい』女性だったが、当時はヴィクトルも若かったしどうにかなるだろう程度でつき合い始め、結婚に至ったのだろう。やがて『当時のマリアンヌ』との日々が終わると知ると別荘を手放してまで資金を作り体験期間延長。この辺「マーメイド・イン・パリ」の主人公が人魚を喜ばそうと部屋へ海へ似せた仕掛けを作ったりあれこれと人魚を喜ばそうとするほど我を忘れた部分に通じる気がした。

 結局、すべては現在のマリアンヌがやや引くかたちで終わるのだが、この夫婦のやり取りが実に面白い。だ〜か〜ら〜最初からそういう女性の権利云々する女性とはつきあわないほうがよかったのに...(汗)もちろんファッションもインテリアも細部までとても洒落ていて、映画書専門店の屋号がリュミエールだったり、ドキドキワクワクさせられる。

115分だったがあっという間。また気温が上がったら日中の暑さから逃れるために昼間の回のご観賞をおすすめします。


 
 

https://www.lbe-movie.jp/
YouKey

YouKey