HAYATO

ガリーボーイのHAYATOのレビュー・感想・評価

ガリーボーイ(2018年製作の映画)
4.2
2024年190本目
言葉に炎を灯して運命に抗え!
インドで活躍するラッパー・Naezyの実話に基づく“踊らない”インド映画
ムンバイのスラム街で育った青年・ムラード。両親は彼を大学へ通わせるため一生懸命に働いているが、そんな親の思いを知る由もなく、ムラードは悪友と車上荒らしに手を染め、医者の父を持つ恋人と内緒で付き合っている。自分の人生を半ば諦めていたムラードだったが、大学構内でフリースタイルラップのパフォーマンスをしていた学生・MC シェールとの出会いをきっかけに、ラップの世界にのめり込んでいく。親からの反対や友情、恋など様々な葛藤を抱えながらも、フリースタイルラップの大会で優勝を目指すムラードだったが……。
監督は、『人生は一度だけ』を手掛けた北インドの実力派女性監督・ゾーヤー・アクタル。『パドマーワト 女神の誕生』のランヴィール・シンが主演を務め、『RRR』のアーリヤー・バットらが共演。プロデューサーにはUSヒップホップ界のレジェンド・NASが名を連ねている。作家・クリエイターのいとうせいこうが日本語字幕を監修。
「ガリーボーイ」は主人公のステージネーム。「ガリー」はヒンディー語で「路地」を意味する。スラムの「路地」を出た青年が、フリースタイルラップの大会で優勝を目指す物語の背景には、インドの階級社会が抱える格差、宗教的差別から解放されたいと願う若者の姿が、幾つもの熱いエピソードを重ねて描かれている。
序盤は、堅実に生きてほしいという両親の想いからくる束縛感に苦しむムラードと、自由が与えられない家庭環境に辟易するサフィナの様子が映し出される。決まったレールを進むしかなかったからこそ、それを我が子に押し付けてしまう親世代と、それに追従することに抵抗を感じている子供世代の対比が印象的。ムラードが自分の価値を父親に必死に訴えるシーンはとても胸が熱くなった。
終盤のラップバトルは、エミネムの半自伝的映画『8 Mile』を彷彿とさせるクオリティ。実際、複数の批評家や映画ファンからは、本作が『8 Mile』のリメイクではないかという意見が出ているそうだが、息苦しい境遇に置かれていたムラードが熱い想いとパッションをラップにのせる様はそれと近しく、画面に映る観客と共にリズムにのってエキサイティングな気分を味わうことができた。”Apna Time Aayega”という曲には、本作のスピリットが詰まっている。
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