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最初の晩餐のsのレビュー・感想・評価

最初の晩餐(2019年製作の映画)
4.0
「最初の晩餐」というタイトルを目にした時、比較対象として浮かんだレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」。「最後の晩餐」といえば、イエスが突然「あなたがたのうちの一人が私を裏切ろうとしている」と発言し、そのイエスの言葉によって使徒たちに動揺が広がる、という場面が切り取られ描かれている。ここでの晩餐は単なる食事の風景ではなく、「ユダの裏切り」が告げられる場面を描くことに大きな意味があった。じゃあ一体「最初の晩餐」ってどういうことなんだろうと考えたけどなかなか分からない。
物語は現在(死んだ父の通夜)と過去(5人で過ごした家族の記憶)を交互に行き交いながら進行し、現在でも過去でも“同じ家の中”だ。通夜ぶるまいとして次々と出される料理たちは家族で過ごした過去の記憶を蘇らせる。会えない時間に崩れた分の深い溝をゆっくりと優しく埋めていく、バラバラになった家族が再びあの頃の家族に戻るために。
好きな場面は数えきれないくらいたくさんある。初めての食卓での味噌汁戦争、父の目玉焼き、焼き芋、ススだらけの顔を見て笑い合う夕方、授業参観後のバス車内、母から教わった骨の刺さらないおまじない、ミヤコが家族のために作る夜食、母の涙、シュン兄の裏切り。そして家族の崩壊。
昔を思い出すこともあるし、改めて自分の親、兄弟、じいちゃんばあちゃん、全部ひっくるめた“家族”という共同体について考えたりもした。結局、家族ってなんだろう?という疑問に対しての答えは見つからなかったけれど、答えなんてない、形なんてない、それぞれが胸の中に留めているそのまとまらない感情のままで、それを自分が家族と思うならそれで良いのだと、この世のすべての家族を肯定してくれる、そんな映画だった。


memo
ラストシーンで染谷将太が彼女の作ってきたおはぎを食べるシーン。実はおはぎこそが父親の大好物だったと分かり、食べていたおはぎを喉に詰まらせ笑いが込み上げてしまうところ。今まで笑いを見せず胸の内に長年煮詰めてきた複雑な感情を抱えていたであろう彼が、“これから家族になるかもしれない彼女が握った、死んだお父さんの大好物だったおはぎを食べる”という行為をすることによって、彼の中から溢れ出てきた色んな毒の蓄積。怒り。悲しみ。嬉しさ。温もり。解放。私はこのラストがすごく大好きで、このシーンを観れただけで、私はこの映画に出会えて良かったと心から思った。
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