TaiRa

アルプススタンドのはしの方のTaiRaのレビュー・感想・評価

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矢野泣き。甲子園球場には見えないけど脳内補正したし、試合は映らないけど打球は見えた。

甲子園出場よりも倍率が高い全国高校演劇大会の最優秀作品を映画化。その上で甲子園球児を光とし、演劇部員らを陰として描くのが複雑で面白い。属性そのものに対してではなく、不発ゆえの陰。不発の今夏に。オリジナルの高校演劇は演劇部員二人、元野球部員、帰宅部優等生の四人芝居。奥村徹也演出のリメイク上演で熱血教師、今回の映画化で吹奏楽部員が追加。場面はアルプススタンドと通路のみで展開され、グラウンドも球児も登場しない。演劇由来のミニマルさを程よく残しつつ映画にしてる。芝居含めもっと映画寄りにも出来たと思うが、多分この作品には「演劇らしさ」は必要だった。その成り立ちも踏まえて。高校野球も高校演劇も大会自体は中止になった2020年に「しょうがないって言うな」と、なけなしの元気振り絞って伝えて来る今作はあまりにタイムリーだし、そんな状況だからこそ「がんばれー!」なんて素朴過ぎる言葉に感動もしてしまう。バカにされ負け続けながら、舞台に立つチャンスを待ち続け、バットを振り続けた矢野に、待ち続けられなかった元野球部員の想いが乗る瞬間、舞台に立てなかった演劇部員たちの想いが乗る瞬間、負けを経験した優等生たちの気持ちが乗る瞬間、不発の青春が報われる。スポーツも芝居も、いつだって無条件に想いの仮託を許す娯楽として存在している。
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