まぬままおま

少年の君のまぬままおまのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
3.2
いじめに遭う少女とヤンチャな少年のラブストーリーを期待していたが、かなり違った。しかも悪い意味で。

もちろんラブストーリーは展開されるのだが、はじめに「いじめは世界的に問題なことである」と説明が入る。そして物語を通して「いじめはだめ!」だから「法整備をしています!」と中国政府の“素晴らしさ”を“教育”された印象を受ける。すごい嫌な感じだ。

しかもその教育メッセージが正しく観客に届いているとも言えない。むしろ私は法外でしか、いじめは解決しえないという結論に至ってしまった。
女子高生チェンはいじめについて、国家の法によって整備された警察に助けを求める。実際、加害生徒を停学にする処分はできたのだが、加害生徒はチェンのところに再び現れ、いじめは終わらない。いじめは警察の介入では解決されないのがよくわかる。

さらにいじめの解決は、加害生徒の殺害である(事故としての側面が大きいが)。ここでもまた法外な解決がされるのである。

チェンを自首させる過程も腑に落ちない。男の警察官は、取調室で双方に対して相手が正直に話したと嘘をつき、自白をさせようとする。またシャオベイが逮捕され、収監されたあと、おそらく勤務時間外にチェンに会い、死刑になったとまた嘘をつきチェンを自首に追い込む。自首への追い込み方が、正当な捜査や客観的な事実からではなく、あくまで法外の行動の、感情に訴えかける方法なのである。

上述とも関連するが、警察の法外的な捜査やシャオベイにチェンがいじめられている動画をみせ自白に追い込むことなど、いじめ事件において絶対にやってはいけないことのオンパレードで、かなりリアリティに欠けていた。
そういった粗さがこの映画の主題をブレさせ、主題が「いじめダメ!解決しようとしてます!」というプロパガンダなのか、ラブストーリーなのか、事件の解決をする刑事ドラマ的なものなのか分からなくなっている。
おそらくどれもが正解だと思うけど、全部中途半端になっている印象。

ただ親の出稼ぎや過激化する大学受験(夜まで学校にいる!)、子どもの貧困と貧富の格差など現代中国の問題がみられたのはよかった。それらもまた、ヒットしている理由だろうと思われる。
そして涙の演技やいじめのシーン、シャオベイが逮捕されるシーンなどは胸が締め付けられた。ラブストーリーの側面だけみれば一定の満足感は得られる。

ただし中国の映画はやっぱり政府の介入を感じられ、薄っぺらい教育メッセージを垂れ流している印象は拭えない。金は潤沢にあるが。