三好マサヒロ

スーパー30 アーナンド先生の教室の三好マサヒロのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

台湾のラーメンは「まずい」、と言ったら、それはそういう食べ物であって、日本のラーメンと「ちがう」ということにすぎない、と諭されたことがある。20歳を過ぎたころのことであって、相手はユースホステルの経営主であった。そのときは、そういうものか、と思っていたのだが、今でもこのことを思い出すのであるから、まだ何か解決していない「トラウマ」として私の中に潜んでいるのであろう。

インド映画は「おもんない」と言ったら、それはそういう映画の作りであって、他の私がいままで観てきた映画と「ちがう」ということにすぎないと諭されるであろうか。けれども、ちがうものとして観たとして、それをおもしろがるしかたは、ちがいを楽しむだけであって、本当のところその作品自体を楽しんでいるのであろうか。それは馬鹿にしているのか、どうなのか。

ヒロインが登場するシーンが、歌に合わせて踊っているというので、踊ってるやん、「やっぱり」踊ってるやん、というので笑ってしまった。これがインド映画だなあ、とか思いながら。とはいえ、ヒロインはかわいいし、やっぱり美女が踊るのって、いいなあ、とか感じていたのだが。

主人公の父親が、自転車のチェーンがギアから外れそうになるのを、サドルをいったん逆転させることで、防ぐ、というカットが二度くらいあって、それで物語の進行のハラハラ感を演出しているのが、唐突だったが、らしい、と思った。その「らしさ」とは何なのかが理解したいのだが。そんなに、自転車がこの物語の軸をなしていたっけ?と思うのだが、インドの文化として、自転車はそれほど重要だったか。

主人公が、大手予備校にスカウトされて高給取りになって、大型バイクを持つ。だが、その予備校に通えるのは金持ちの身分の子どもだけであることに疑問を抱き、彼は、貧乏な身分の子どもが通えるような無料の予備校を設立する。その際に、大型バイクを売り飛ばし、自転車に乗り換える。その時のカットが、自転車のギアがアップになって、チェーンを巻きなおす、というものだった。

自転車という貧民の乗り物と、大型バイクという富める者の乗り物という対比だ、というのはあまりにもわかりやすすぎる比喩だろう。なんで自転車の「ギヤ」にあれほどアップしてこだわったのだろうか、というのが私は気になった。それで、これは私のあてにならない勘なのだが、あのギアは「輪廻転生」を表している。

この映画の主題は、「人は生まれによってその生き方も決まる」というインドの風習の中で、「生き方を変えることで生まれが決まる」というある逆転を描いている。とはいえ、「生まれによってその生き方が決まる」という根本的な思想に変更はない、と思った。その「輪廻転生」というゲームのルール自体は受け入れられているのである。自転車のギアを「外す」のではなく「回す」ことが、主人公たちの目標なのだ。そこに私は「インド」というものの、貧者の「貧しさ」以上の「切なさ」を観た。根本的な「貧困」というべきものにぶち当たる。それによって、日本における根本的な「空虚」というものが照らし出される、というのは、話を急ぎすぎているし、のちのち展開するつもりもないのだが。

映画における「回想シーン」というのが、その映画の特徴を大いに表していると私は思っていて、この『スーパー30』でもそうであった。「貧しくて働いている両親」である。これがひたすら出て来る。貧しく働く親というものから引き継がれているのがいまの自分であるのだが、その貧しく働くことから解放されることに向かって未来は目指されるのである。

工科大学に入学できた人は、本人だけでなく、その子と孫にまで100年間の幸せを得ることができるのである、とラスト近くで語られていたが、それは「王の子は王」、というルールを変更したのではなく、そのルールを受け入れたうえで、そのルールに則り、ゲームを行ったにすぎない、というのは繰り返しになるが、映画の作りというものも、同じような、あるルールに則ったものとなるのであり、登場人物の性格も、単純なものとならざるを得ないだろう。この映画の主題がくりかえされる主題歌は、なぜそんなに「革命」がなんどもなんども繰り返されるかというと、それが嘘だからである。嘘だから何度も言ってごまかさなければならないのである。だが、繰り返さすことによってむしろ嘘であることを表現しているのである。

とはいえ、それが叫びであること自体には、変わりがない。「二輪車」は漕いでいないと転倒する。ヒロインが「四輪車」の車内で、許嫁といい感じに、男を見る目があるのよ、と言っていたのが気になった。

明後日から始まる『RRR』が楽しみである。予告編を見たら、車、バイク、馬、荷車、と乗り物ばかりだったので、そういう映画として注目しよう、と思う。
三好マサヒロ

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