三好マサヒロ

ほかげの三好マサヒロのネタバレレビュー・内容・結末

ほかげ(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

前半はずっと部屋の中での撮影。これはあえてだろうと思ったが、おもしろかった。外はうつらないが、外の「音」は聴こえてくる。カンカンととんかちを打つ音。蒸気機関車の音。

外は「がれき」である、という情報は聞いてある。戦後間もない、ということも知っている。けれども、音によって、街は「復興」をして行っていることがわかる。そのことによって、「この部屋」が、外から「取り残されている」という感じを強くする。

「ひきこもり」の感覚。「女」がずっと畳に横になっている。外では復興している人もいる。けれども、それについていけない人がいる。これが、この映画の大きな主題である。戦争で傷ついた人がいる。しかし、傷ついて立ち直る人と、立ち直れない人がいる。

戦争の傷から立ち直れないひと。それが三人出て来る。その中に一人の孤児が紛れ込む。ひとつの拳銃を持って。この「拳銃」をめぐって右往左往する三人の大人を、子どもがみつめる、という作品だ。

ラストの銃声ひとつ、これで子どもが悟ったこと。それは「女の死」、だ。だが、それだけではない。復員兵と的屋の男、彼らのことも、思い出した、と見ることができる。

拳銃の音に、おびえる男。拳銃を手に、復讐する男。拳銃で、自殺をする女。

そして、拳銃を捨てて、街へ出る子ども。

銃声一つ。ふりかえり、前を向いて、出ていく。このシーンに、三人が重なる。この重なりは、脚本の妙である。すばらしい、とうなる。

さて、女が、おそらく性病になったとおぼしきシーンで、部屋の中が、がれきの特撮で広がるやつ。何を言っているか、文章ではわからないが、実際に映像でも、なにがなんだかわからなかったが、圧倒的なパワーに驚いた。

なんだかとんでもないのである。

なんというか、監督の「魂」に触れた気がした。

とにかく、観てよかった。
三好マサヒロ

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