ヨーク

男女残酷物語/サソリ決戦のヨークのレビュー・感想・評価

男女残酷物語/サソリ決戦(1969年製作の映画)
3.9
なんか日本未公開の伝説のカルト映画がついに公開! みたいな宣伝の仕方だったのでまんまと乗せられて観てしまったのだが、要はこの『男女残酷物語/サソリ決戦』という映画はマリー・クヮントが大ヒットさせたミニスカートが象徴するようなフェミニズムの勃興という一種のムーブメントがあり、それに乗っかった感じのカトリーヌ・スパークの『女性上位時代』とかと同じような流行り物的な要請で作られた映画ではないだろうかと思う。他には『セッソマット』なんかも同じような時期じゃなかろうか。ま、そこには現在にも続くフェミニズムの萌芽のようなものはあるが学問としてのフェミニズムというよりかは運動、いや流行としてのフェミニズムであり、上記したように流行り物に乗ったという域を出るほどのものではないんじゃないだろうか。そういう意味では別に映画観が変わってしまうほどの驚くべき作品、というほどでもないかなぁと思ってしまうのだが、それはそれとして映画としては余裕で面白かったですね。ただそれはいい年こいたおっさんの俺の目から観てということがあるので、感性の瑞々しい10代の少年少女とかが本作を観たらどう思うのかは分からない。もしかしたら一生モノの影響を受けるかもしれない。
ちなみに本作はカルト映画的な紹介をされてるし実際に中々にぶっ飛んだ内容のお話しだとは思うが、そういう印象を持つ要因としては副題的な「サソリ決戦」というワードがどんな映画だよ!? 感を加速させていると思う。だがこれが実際に観ると確かにサソリ決戦だな…と納得してしまう内容ではあったが…。最後なんてあれ西部劇のガンファイトかと思うよな。カメラワークやBGM的にも狙ってただろ! という気はするが、そういうところはいかにもイタリアの下ネタコメディ感があって面白いところでありました。そんな感じで流行りのフェミニズムに乗っかってエロとコメディとパロディで作り上げた感じの映画だが脚本は中々によく出来てるんですよね。
あらすじはかなり荒唐無稽ではあるが、最初のシーンはとある娼婦が一仕事終えて自分の車で帰宅するのかと思いきや誰のものか分からない車に乗り込み、その後で得意客からの誘いを断るシーンから始まる。そしてシーンが変わってある慈善団体の幹部のおじさんが元ジャーナリストの広報担当の女性社員(細かい設定は忘れたが多分そんな感じ)の女性を自宅へと誘い、その女性社員もその誘いを受けるのだが実はその慈善団体幹部のおじさんは女性を監禁して拷問して死に至らしめるのが大好きな変態猟奇殺人鬼で元ジャーナリストの女の人危うし…! というあらすじです。
まぁそんなアホなという展開ではあるのだが半分ギャグで半分マジ(いや8割ギャグかな…)って感じではありつつ、家父長制的な男が女を支配するという構造をSMの関係性に転嫁してマッチョイズム全開の男の強さを誇示して女を思いのままにしようとするのだが、当時の感覚ならともかく現代人の感性で観たらそんなの絶対に反転するのは分かってるよな、とはなるわけである。
そもそもSMというのはロールに応じた関係性の遊戯を性的なものへと昇華させたものであり本来は社会システムにおける男女の立場の違いなどが含まれるものではない。あくまでも個としての男女の間にある関係性の遊戯である。ま、社会の中で生きていない人間っていうのはほぼいないと断言してもいいので社会における男女の立場というのは否応なしに基本情報として刷り込まれているのだが、それをそのまんま社会における男女のあり様と個人的かつ性的なSM嗜好を結び付けて一緒くたにしてしまうのはちょっと危ういんじゃないかなぁと思うわけである。何が言いたいのかというと、この映画をそのまんま額面通りに受け取って女を支配しようとする悪い男を倒す物語、と思ってしまうと性的な関係性の遊戯であるSMというものへ個人が持ち込み得る余白というのがなくなってしまってつまんなくなるんじゃないかなぁと思うわけですね。当たり前だけどMな男もいればSな女もいるし、それぞれがどのような関係を求めているのかは個人によって違うのでこの映画を以てケーススタディとしてしまうのは大分危ういなぁと思うわけです。
ただそれはそれとして本作は上記したようにとても良く出来た脚本(中盤はかったるいが)で最初のシーンの誰がどの車に乗るのかというところまで綺麗に伏線として回収されるのでお見事な映画ではあるのだが、そこまで持ち上げるほどのもんでもないなぁとも思いますね。ちなみに中盤はかったるいと書いたがストーリー的展開の起伏は乏しいものの笑えるのは中盤なのでその辺もバランスとしてよく出来ている。
ま、フェミニズム的な観点で観るよりもちょっとおバカで変な映画くらいの気持ちで観た方が楽しめるのではないだろうか。男性性の邪悪さよりもかわいさを描いている映画だとは思いますね。だからこそオチはスッキリするのだと思う。
面白かったです。
ヨーク

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