ブタブタ

劇場のブタブタのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「沙希はもう少し我慢すれば永田は芥川賞取ったんじゃないだろうか·····」
原作は又吉直樹『劇場』
だけどエッセイ『東京百景』も合わせて読むべき。
相当美化されてるけど『劇場』は殆ど又吉直樹先生の半自伝的小説。
そして『東京百景』七十六「池尻大橋の小さな部屋」こそが映画『劇場』の真の原作。
九頁程の短いエッセイだけど『劇場』の永田と沙希の出会いから別れ迄全て語られてる。
「大切な人を何故大切に出来なかったのか」という普遍的な話しだった。
寺山修司にとって「母親」は逃れられない「呪い」みたいな存在でその創作に多大な影響を与えてるみたいに作家・又吉直樹にとってのあの「彼女」はもはや逃れられない「呪い」になってしまってるのかも。
でも其れはあの彼女の方からしたら当然の結実だし、実家に帰った彼女が今は結婚して幸せに暮らしてる事を祈らずにはいられない。
そして又吉先生は結婚せずに一生「彼女」の事を自らのファム・ファタールとして小説を書いて欲しい。
又吉さんの「彼女」との出逢いから二人で過ごした時間や葛藤もほぼこの映画で描かれているそのまま何だろうと思う。
だから心を病んで実家に帰った沙希が再び東京に来てアパートでの二人の即興芝居によるあのくだりは見てて途中から腹立たしかった。
こんなの全部都合のいい嘘だろうと。
例え本当の彼女が小説・映画と一字一句全く同じ台詞を言っていたとしても。
原作には無い映画のラスト。
だからあそこは完全に騙された。
アパートの壁がパタンと倒れてそこは舞台の上。
寺山修司の『田園に死す』のラスト「新宿区新宿字恐山」と全く同じだけど。
全ては芝居。
『田園に死す』と同じく之は「捏造され演出された思い出」の恋愛ドラマ。
だったと思う。
だから美しい。
又吉さんが山崎賢人なのも彼女が松岡茉優なのも之は捏造で嘘だから。
原作にはない、その続き。
恐らくは観客を呼べる芝居の作家として成功しつつある永田の舞台を見つめる沙希。
表情や雰囲気から、もはや彼女は別の世界に生きている事がわかる。
もう二度と二人の人生は交わらないだろうし沙希にとって『劇場』は「美しい思い出」以上の価値は無いんじゃないのかなと。
そして幕が降りたあと最後まで席を立たない女性が居てあれは当然沙希かと思ったら違う女性だった。
あの人が本物の「沙希」だったという事では。
だとすると本当に全ては芝居だったと思えて何か救われた気がした。

真面目な感想はこのくらいで(ºωº)
いくらクズ男でも山崎賢人ならいいんじゃないだろうか(笑)
結婚前の無職時代、僕も彼女の部屋に転がり込んで世話になってました。
昼まで寝ててハローワークに行き、何かした様な気分で部屋に帰り働いて帰ってきた彼女に何故か僕の方が「お疲れ様」って言われたり(笑)
それと又吉先生はやっぱり「喜劇作家」だと思う。
自転車に乗って傘で襲って来る金髪男は『呪怨:呪いの家』の白ブリーフ男並の恐怖(笑)
傘でしばかれて地面に横たわったあと「あの自転車は僕が彼にあげた物だった」のナレーションで爆笑した。
それと沙希のバイクを自分で破壊して「転んだという事にした」のあとベットに突っ伏す沙希と首にコルセットして体育座りしてる永田の余りにもシュールな絵面。
こういうシュールな世界がやっぱり又吉先生は得意なのだと思う。
ブタブタ

ブタブタ