TAKUMI

劇場のTAKUMIのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
4.4
ここまでリアルで、自分の心を刺す恋愛映画は初めてかもしれない。でも、数年前に見ていたらこの映画はつまらないって思ってたかもしれない。少しだけ大人になったからこそ、良い映画だと思えるような気がする。

この映画には印象的な二つのセリフがある。
永田の"いつまで持つだろうか"と沙希の"ここが一番安全な場所だよ"っていうセリフだ。

"いつまで持つだろうか"
このセリフは映画中、たびたび登場する。冒頭の沙希と出会う前や沙希と別れて一人で部屋の掃除をしてるときなど。
でも、共通しているのは沙希といる時にはこの言葉は出ていなくて、無意識だけど、沙希といるとこの不安が消えているのが分かる。この演出が凄く奥ゆかしいなって思えた。

"ここが一番安全な場所だよ"
この言葉の通り、沙希は永田を金銭面や将来の不安から守った。でも、沙希が放った言葉は一見するとめちゃくちゃ優しいようで、恐ろしい言葉だなって感じた。
人って安全な場所だとその有り難みに気づくことができなくて、努力することをやめてしまう。その安全な場所が崩れてきてることに気付いて変わらなきゃって思っても、変われないし戻れない。だから、永田は沙希にずっとあんな態度だったし、元に戻ろうと必死になっても手遅れだった。
この人間の心理がめちゃくちゃ上手く描かれているなって思って、そうなんだよな、人ってなかなか変われないよなって共感した。

ラストの"一番、会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことが何でできなかったんだろうね"っていうセリフはめちゃくちゃ切なかったし、永田が言うからこそのセリフだなって思った。

永田ってとんでもないクズで救いようないけど、誰しも持ってる無力感とか焦燥感とかを端的に表現してて、めちゃくちゃ自分の心を抉り取ってきて、こうならないようにも変わるために努力しないとって思えた。
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