幽斎

ダーリンの幽斎のレビュー・感想・評価

ダーリン(2019年製作の映画)
3.8
恒例のシリーズ時系列
1981年  Off Season 未映画化
2009年 3.6 Off spring 「襲撃者の夜」原作がエグ過ぎるのよ(笑)
2011年 4.2 The Woman 「ザ・ウーマン」カオスならヘビー級
2019年 3.8 Darlin' 本作

未体験ゾーンの映画たち2021も最終コーナー。既に「アーカイヴ」「ラブ・エクスペリメント」「ファブリック」「デンマークの息子」「バッド・ヘアー」「TUBE チューブ死の脱出」「フロッグ」「スプートニク」レビュー済。シネリーブル梅田で鑑賞。

キャラクター創造Jack Ketchum。本名はDallas Mayr、2018年1月癌の為71歳で死去。ペンネームはイギリスの斬首刑執行人の名前ジャック・ケッチが由来。作家として独立する前は、イエジー・リビングストン名義で多くの雑誌に記事を売った。1981年「オフシーズン」作家デビュー。彼の作風は「Violent pornography」何だろう、暴力ポルノで合ってる?。文壇では批判されるが、Stephen Kingの様に才能を認める著名人も多い。

私も作家を目指した過去が有るので「独創性」を持つ作家は素直に素晴らしいと思う。ブラム・ストーカー短編賞「Gone」彼のエッセンスが凝縮された作品で、日本でもっと評価されて良い。代表作「隣の家の少女」実際に起きた事件を基に書かれたが、Stephen Kingも「過去20年で最も恐ろしく、ショッキング」とコメント。精神的苦痛の伴う作品は監禁スリラーとして2007年に映画化。

ホラー小説の異才として映画界からも注目され「襲撃者の夜」実話を基に描かれた食人族の争いは、内容がアレなので(笑)批評家から酷評。原作の「匂い」まで映像化するのは、既に映画の枠を食み出して無理が有る。実はデビュー作「Off Season」の続きが「襲撃者の夜」、そして食人女が再登場、鬼畜親父を辿る衝撃の顛末を描いた「ザ・ウーマン」サンダンスやシッチェス映画祭で正式上映。これは「May」Lucky McKee監督の手腕が大きい。

本作はキリスト教国では無い日本人には、本質が伝わらない点も散見される。私は元カトリック系クリスチャンですが、例外なく打ちのめされた。キリスト教的価値観を人間の道徳観念に置き換え、宗教の組織的な偽善や腐敗を痛烈に批判する。特に「Immaculate」無垢を求める邪悪な性癖が、男性社会の本質を映し出した。

此処まで書いて気が付いたけど、前作「ザ・ウーマン」を観て無いと、誰が主役なのか分らないと思うので、老婆心ながらお浚いを。狼に育てられた野生女ザ・ウーマンは、腐れ親父を食い殺し、娘達と森へ消えるラストが秀逸だった。彼女は文明の力「火」が使えない。だから人肉は「レア」で蝕す(笑)。腐れ親父の末娘が本作の主人公「ダーリン」。なので主役ダーリンはLauryn Canny。そしてザ・ウーマンと脚本と監督がPollyanna McIntosh、素顔は典型的なイギリス美人。看護師役Cooper Andrewsの存在感が絶妙だった。少なくとも前作「ザ・ウーマン」の予習は必須だろう。

Pollyanna McIntoshを最初に観たのは就活スリラー「エグザム」←割とお勧め。「襲撃者の夜」では役名が「女」で出演。続く「ザ・ウーマン」も「女」として出演。設定は微妙に異なるが、彼女を通した3部作で集大成として描いてる。人喰映画を女性監督が演出するのは珍しいが、作品を始動した時は、既にJack Ketchumは体調を崩しており、アドバイスを求めたら「書くだけだ」と背中を押され聖堂の撮影風景に満足して帰ったそうだ。それは女性監督らしい視点で完成、エンドロールで哀悼の意を捧げてた。

女として「産む行為」。男女平等とは言うが、社会が女の「産む行為」に依存してる事は紛れも無い事実、男から見れば(私は違うけど)女は子を生産する為の機械。それを拒否しても男は暴力で事を成し遂げるだろう。逆の視点で見れば、男には「産む行為」は不可能で、本能的な欠陥が社会を俯瞰して管理できる能力。社会全体が女への暴力を見て見ぬ振りをしてると、Jack Ketchumは問い掛けた。

シリーズの顔Pollyanna McIntoshのエンドロールの扱いに全てが集約された気もする。演出面もフェミニズム思想が鮮明、人喰族が種族を維持する為に文明社会の女を強奪する事と、文明社会の男が無垢な処女を孕ませる事に、何の違いが有るのか問う。妙に社会的な理屈っほさが、カニバリズムを求める単純なホラー層に、理解されないのは当然。逆に言えば、其処を盛り上げるエンタメ的な演出の喰い足らなさが面白くない理由。

監督が女性に交代した事で、テーマが薄まった事は否めない。特に「ザ・ウーマン」が大好物の方には、文字通り「喰い足りない」だろう。良く考えれば前2作でも、そんなに人は食べてない。だからタイトル「Darlin'」愛しい人に繋がるが、ハングリーさが足りない点は、本作のテーマは「食材」ではなく「贖罪」(上手い事言った(笑)。

女性監督らしいシスターフッドも感じるが、これまでの「襲撃者の夜」「ザ・ウーマン」の流れを汲んだシリーズらしい楽しみ方も有るし、保護施設の微妙な連帯感、ノマド感も在る。最終的に教会との密接な関係に帰結するので、結果的に悪くない終わり方だと思う。本作はインドで起きた事件をインスパイアしてるが、世の中の良識と言われる「闇」を炙り出した。文字通り「獣道」を描いたシリーズだが、彼女は「いいアイデアが浮かんだら」と続編は否定してない。

「ホラーを観る時、ホラー映画も又、貴方を見つめてる」だからホラーは奥が深い。
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