碧

春画と日本人の碧のレビュー・感想・評価

春画と日本人(2018年製作の映画)
5.0
面白かった。
チーン!というベル?鈴?の効果音だけうるさくて耳障りだったけど、それ以外はとてもわかりやすかった。

反対派の人は登場しないけれど、色々な専門家の方の話があったり。
私が女性だからか、特に女性の方の話が分かりやすかった。

『お嬢さん』を見たら、逆に日本人として、春画についてちゃんと知りたいわ、と思い。(『お嬢さん』の中では、春画はとてもマイナスな使われ方をしています。念の為。)

春画はインターネットでも色々見られるけれど、映画館のスクリーンで見ると、色の華やかさがパッと目を引く。
現代の彫師さんが春画の技術にどこまで迫れるか、同じものを作ってみることで春画の技術の高さが明らかになったり。

最後の方で、女性研究者の方が、"春画をきっかけとして、当時の江戸の生活・文化へと関心がさらに広がっていけば"というようなことを言っているのが、そういうことだよなあと思った。
春画だけを取り出して語ることに意味はないと私は思うので。(コレクターが自分の趣味で集めることに関しては、理屈は必要ではないと思うけど)

"昔はオープンなものだったんだから気にしなくていい"というような、男性ののんびりしたナレーションが入るのだけど、そういう短絡的なものでもないと思う。
昔は良かったんだから、といっても、当時は人権意識も低いわけで、特に女性は、今の価値観を持って当時の生活の中に入りたい人はほとんどいないと思う。戸締りとかもきちんとしてないし…。

ただ、猥褻といっても、男も女も同じ扱いで描かれているわけで、現代のヌード写真のように男性だけを鑑賞者として想定しているわけでないので、そう意味で、春画を見ての不快感はない。
また、純粋に幸せそうな表情の絵も結構あって、陰惨なドラマや映画を見るより全然いいんじゃないかとも思ったりする(これは個人の感覚だけど)

だから、いったい実物がどういうものなのか、本来、どういう環境で、心理で、鑑賞されていたものなのか、という文脈を踏まえた上で、春画を評価しないといけないと思う。

海外(多くはヨーロッパですよね)では春画の展示が比較的しやすいのは、明らかによその国のものなので、一定の距離をおけるからというのもあると思う。よその国の文化なんだからアリなんじゃないですか、という距離感。
日本人が展示すると、自分たちが生み出したものとして直面しなければいけなくて、それに対して恥ずかしいとかいう感覚も生まれてくるんじゃないかなあと…。

一方で、やはり江戸時代はもう遠くなったので、また、ある種の距離をおいて鑑賞できるような気もする。
まあそもそも、年齢制限や(書籍の場合→)価格やルートで、一定のアクセスしづらさを作ってるんだから、あとは自己責任、というのでいいと思うけど。

春画が好きか嫌いか、と言われたら、ああ、そういうものがありますねえ。綺麗なのやトンデモなのや面白いのや色々ありますねえ。という感じで、今後展示会があったからといって、行くかどうかはその時にならないと興味がわくか分からないなあと思っている。
けれど、華やかで美しい春画(ある種グロテスクな部分もある)をぼかしやカットなく鑑賞でき、明晰な専門家の方たちの話をたくさん聞け、分かりやすく編集されていて、これは良いドキュメンタリー!と思ったのでした。
碧