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hisのmaiのレビュー・感想・評価

his(2020年製作の映画)
3.9
途中までは「同性愛がなんだ、好き同士ならそれでいいじゃないか」っていうお決まりの文句を伝えたい映画なのかなと思ってたのですが、後半でその風貌がガラッと変わる映画でした。

昔付き合ってた男の家に転がり込む、離婚調停中の男性と子供。
そのちょっと異質な展開が冒頭から始まるので、最初は違和感を覚えるのですが、空ちゃんを通じて渚と迅が少しずつ前のような関係を築き始めていくのが何とも言い難いくらいに温かいんです。
田舎特有の面倒臭さと温かさもいいです。

なんとなく、このまま「ゲイのカップルが子供育てるのって別に特殊じゃないし、いいじゃん」って展開になるのかと思ったら、家族とは何か?同性愛とは?という、恋愛にとどまらない「家族」という枠組みで物語が進み始めます。
そこで、観客側も現実を突きつけられるんですね。
とにかく、離婚調停裁判が辛かった…。
家族として、今まで夫が子育て・妻が仕事を担当するという、(現代では)世間一般的な役割分担と反する方法で成り立ってきたものを考え直すとどうにも上手くいかない。夫婦各々が自分なりに頑張ってきたからこそ、どちらの気持ちもわかってしまう。
一方で、夫の方はゲイとして新しいパートナーもいて、田舎では運良く受け入れてもらえたけれど、裁判では相手の弁護士?にあれこれ言われて。でも、それがある意味現実なのかもしれないなぁとか思ってしまいました。
結局、何となく折り合いはついたし、最後の渚の主張は確かになと思いましたが…それでも切なさは残ります。

ただこれが実は現代ではあり得るケースなのかもしれないなと思うと、こうやってまとめあげている映画ってすごいなぁと思いました。切なさは残るけれど、終わり方は良かったですし、それでいて「家族のあり方」を現代に即して考えさせてくれる。
さらにいえば、もう色んな言葉が刺さりまくる。
麻雀のおばあちゃんや狩猟のおじいちゃんは最高でしたね…あんな風にサラッと言ってくれる人の存在の何てありがたいこと…。

単なるLGBT映画ではないです。

そして役者の方々。初めは、宮沢氷魚さんの演技がかなり棒でヒヤヒヤしたのですが、多分彼は自然体な演技が似合うんでしょうね…前半の感情を押し殺したような演技はハッキリ言うと微妙でしたが、それ以後の演技は良かったです。何よりも、彼の雰囲気や顔が良くって絵になりすぎます。
そして、奥さん役の方や渚役の方の張り詰めた感じやラフな感じがすごく良かったです。松本穂香も役場の人らしい雰囲気が出てたし、キーパーソンとして十二分に役目を果たしてました。
でも一番は空ちゃん役の子のファインプレーかもしれません。初めこそ「典型的な絵に描いたような6歳」に見えてたのですが、とにかく表情がコロコロ変わるのが可愛いし、無邪気さもありつつ素直さもありつつで、素晴らしすぎる演技でした!

観てる時は映画の世界に感情移入してのめり込み、鑑賞後は切なさの中でじわじわと映画のメッセージが染み込んできます。

今泉監督は「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク」に続いて、3作目なのですが…やっぱり好きだなぁと思いました。憎むべきキャラクターがいなくって、それでいて切なくもなるし鑑賞後の余韻がどこまでも尾を引きます。
「mellow」は観にいけるか分からないのですが、そちらも観たいなぁと思いました!
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