badhabit

hisのbadhabitのネタバレレビュー・内容・結末

his(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

タイムラインでも賛否両論だった今作、流行りのボーイズラブか、LGBT差別への問題提起か?と思って観たら、やや面食らった。
愛の物語だが、ラブストーリーではないし、安直に同性愛者だから生きにくいよね、と同情を誘う内容でもない。
家族の在り方や、勇気を持って自分の人生に他者を受け入れることが淡々と描かれていた。
ツッコミどころは多々あれども、優しい印象で個人的には好きな映画だったな。
映画にリアリティーをそこまで求めていないので、現実的に「?」な部分もある種のファンタジーとして楽しめた。この辺はBL漫画をたくさん読んできて鍛えられているフィクション耐性なのかもしれませんね…。
序盤、渚の身勝手さがとにかく腹立たしく、「迅は優しいな……わたしだったら絶対家にあげないし水撒いて追い返すな…」と思いながら観ていたが、迅にとってはそれだけ苦々しくも忘れられない相手だったんだなと思うと以降の迅の渚や空ちゃんを見守る視線に切なくなる。
また、玲菜にも感情移入してしまい、何ひとつ悪いことはしていなくてやりたいことを仕事にして親に頼らず一生懸命生きてきて、お腹を痛めて子供まで産んだのに相手がいきなりゲイをカミングアウト…と思うと憂鬱な気分になった。
裁判のシーンはマリッジ・ストーリーを彷彿とさせたが、そこまでの迫力はなく、渚の謝罪の言葉によって物語は静かに収束に向かう。あの言葉で、渚自身も悩んで苦しんだと思えて、ようやく玲菜に感情移入していた自分も渚という登場人物を受け入れられたように思う。双方の弁護士のキャスティングが神がかり的に良い……戸田恵子さん、お声もさることながら立ち姿が凛としていて、且つ渚を見守る視線には母性にさえ似た慈愛を含んでおりとても素晴らしかった…。
空ちゃんに作品通してのメッセージを台詞で伝えさせてしまうのはあざとくて少し笑ってしまったが、全体通してじんわり温かい気持ちになれるいい映画だった。
互いに影響を受けること、自由な人生を願うこと、長寿や健康を祈ること、共に生きる勇気を持つこと、成長を喜ぶこと、様々な愛で満ちていた。登場人物全員、悪人はおらず、でも情けないところや身勝手で他人を思いやれないところ、傷付けてしまうこともあって、それでもそれすら含めて人間を愛おしく見守る監督の視線のようなものを感じた。
額を合わせるのは祈りで誓い、と誰かが書いていた。異性が相手でさえ、共に生きると決めることは勇気のいることだと思う。
それでも、互いの傍にいることを決めた二人を、彼らを取り巻く人々と共に祝福したい。
主題歌がとても良くて、本編以上にエンドロールで泣かされてしまった……。翌日即MP3を購入した。


追記 20200208
最近、鉛筆と箸の持ち方を矯正している。鉛筆は正しく持てるようになったが、箸はまだ正しく持てない。
何故正そうと思ったかと言えば、単純にマイノリティであることを恥ずかしく思ったからだ。
玲菜の最後の台詞の意味を、ずっと考えていた。
もし、自転車に乗れることがマジョリティであるならば、乗れない玲菜は持たざる立場だ。
誰しもが、出来ること、出来ないこと、持っているもの、持っていないものがあり、そこに正誤もなければ普通も異常もない、ということが、あの台詞に込められているのだとしたら腑に落ちる。
空ちゃんに台詞で言わせてしまっているからややチープに受け取られがちではあるが、
どんな生き方も異常ではなく、それを肯定すべきだということがこの映画が最も伝えたかったことなのかも知れない。
badhabit

badhabit