わたしたちはここにあった。住む世界も笑いかける相手も違うわたしとあなたが、言葉もなく手を取り合い都市の夜を回す歯車の一部になろうとしている、それだけで満たされてしまいそうで怖い。いずれはぐれることが分かりきっている数時間の遊歩。光ってみえるものだけが幻じゃない、からだじゃなくてその奥に触れたい、言葉じゃなくて声が聴きたい、そうやってこれを裏付ける。共犯になってしまおう、わたしたちは互いの観測者でいよう。存在の証明をして。見ていてこの夜が終わってしまうとき、覚えていてあなたは何も言わず行ってしまうから。一日をやっと生き抜くだけの金と、白黒しか見分けられないこの目と、ことばのつなぎ方だけを離さずに、夜を越せればそれで良い。もう二度とここには無いあなたのことを思い出すには、それだけあれば事足りる。