海さんの映画レビュー・感想・評価

海

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)

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だれかを抱きしめたり、だれかに抱きしめられる夢をよく見る。それはいつも目がさめる少し前に、数分間だけ見る夢で、あいては、女の人のときも男の人のときもあって、こどものときもおとなのときもあって、知ってる>>続きを読む

Here(2023年製作の映画)

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生まれてくるまえの姿や、生まれてから間もない頃の記憶や、わたしのことをずっと待っているはずの何かに、つづいていそうな細い道だけをいつも選び、ここまできた。〝花や草やいきものの名前を、見えるかぎり、すべ>>続きを読む

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)

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死について考えるとき、渡船で渡った小さな離島の海岸で、空を飛ぶときのように羽を広げた姿で死んでいた海鳥のことを思い出す。今まで家族や親しい人の死を経験したことがないから、わたしにとっての死のイメージは>>続きを読む

小説家の映画(2022年製作の映画)

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 春の日を思い出すとき、かならずわたしはひとり広いところに放り出されていて、ずっととおくで子どもたちの笑い声が響いていて、自分のまつ毛がおとす影さえ冷たく感じるほどに照らされていて、あのとき泣いていた>>続きを読む

浮き雲(1996年製作の映画)

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夜には灯りがあって、寝室には静けさがあって、わたしにはあなたがいます。夜がいちばん青くなるときは、夜が明ける一瞬前なのだと気づいたのは、はじめて眠れなかった日だった。悲しみは青く、幽霊は青く、雨の日の>>続きを読む

瞳をとじて(2023年製作の映画)

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わたしは天国にも詩があると信じている。ビクトル・エリセは、天国にも映画があると信じているのかもしれない。きのうの夕方、この映画を観ているとき、自分がいつも映像の中の何を見ているのかが、不意にわからなく>>続きを読む

あしたの少女(2022年製作の映画)

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眠る時間さえ惜しいほど忙しい毎日の中で、通勤の時間、浴槽で目をとじてる時間、ベッドに入る前の時間、そういうわずかな隙間に「元気にしているんだろうか」と思い出すひとたちが、ひとりずつ、ソヒの姿と重なって>>続きを読む

怪物(2023年製作の映画)

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 この世に、たったひとりしかいないあなたの、ほんとうのしあわせには、この世のすべてをあわせても足りないくらいのおおきな意味が、あるのかもしれない。そう本気で思うほど育ったこの心に、わたしの名札をつけれ>>続きを読む

光りの墓(2015年製作の映画)

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あいしているいきもののからだをこの手で撫でてみるとき、ちいさな地球にふれているような気持ちになる。たとえばねこを撫でるとき、毛なみは、重く濡れて静まる夏の早朝の森のようで、たえまなく波をうちつづける冬>>続きを読む

夢の涯てまでも  ディレクターズカット版(1991年製作の映画)

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書くことも話すことも本当はしたくないのかもしれないとおもうことが、ときどきある。何も書かず、何も話さず、だまって生を終える。それができていたら、少なくとも今よりはずっと幸せで、今の半分くらいは何も考え>>続きを読む

希望のかなた(2017年製作の映画)

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わたしが、ほんとうの意味のやさしいひととなるのは、いつだろうか。この映画を観ている途中に、それを考え始めて、今日はやさしさというものが何もわからなくなって、長い散歩をした。少し前まであんなに寒かったの>>続きを読む

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)

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わたしの内側には、外側の世界よりもずっと広い場所があって、日常の透き間でふいにその場所まで行けたとき、わたしはこのままどんなに不幸になってもわたしのままで生きていけるだろう、とおもう。日曜日の夜に、市>>続きを読む

海辺の一日(1983年製作の映画)

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エドワード・ヤンがあやつる時間の波に身をゆだねていると、わたしはわたしの持つ最も古い記憶のもとまで戻って、そのまま、名前もかおも知らないだれかの中にはいっていきそうになる。たった一時間や二時間で、はじ>>続きを読む

ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023年製作の映画)

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このレビューはネタバレを含みます

始まって5分ほどで「最高」の賛辞に代わる涙が出ました。馬に乗り走っている3人の人間に命中するまで何度も何度も拳銃の引き金が引かれるが、ジョン・ウィックはその中の1発たりとも馬には当てなかった。それを見>>続きを読む

バービー(2023年製作の映画)

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グレタ・ガーウィグが、この時代を生きる一人の女性/人間として、わたしたちに関わってくるその方法は、いつも魔法そのものではないですかとこの映画を見ていて思った。「ずっと好きで、ずっと味方だと思ってきたの>>続きを読む

明日の世界(2015年製作の映画)

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止まらない時間の中で泊まっていたくなるときがある。夜に向かう夕暮れの時間、陸橋の上から見下ろす、渋滞した道路の、一台一台の車の中に、どんな人たちがいるのかを想像するときもそうだ。家族とうまく話し合えな>>続きを読む

ビヨンド(1980年製作の映画)

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体感2時間半の90分を過ごし、全く面白くなかったはずのこの映画について、3ヶ月経った今でも考えてしまっていて、わたしの心は「これは最高の映画で間違いない」と認めたくてたまらなくなっている。まず、塗装業>>続きを読む

カマグロガ(2020年製作の映画)

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「人が畑に入るときほど美しいものはない」と作中で語られたとき、わたしが毎日のように聞いているラジオ番組のパーソナリティが、都会に住む人から地方へのある批判を受けた日に、「今のあなたは田舎には何もなくて>>続きを読む

永遠と一日(1998年製作の映画)

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わたしを見つめるときのあなたの目や、わたしに触れるときのあなたの指や、わたしを遠くから呼ぶときのあなたのこえが、わたしの知るやさしさのすべてで、だからおもう、やさしさというのは、やまない雨や、あけない>>続きを読む

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)

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もう陽がほとんど沈んだころ、映画が終わって、そのまましんだように眠った。シーツは草原のようにやわく、タオルケットは風のようにかるく、わたしの肩と胸の下でつぶれた毛布は、呼吸するいきもののようだった。心>>続きを読む

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

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声をもたないものたちとかかわるとき、言葉を交わせたら聞いてみたいことが頭にうかぶけれど、そのこたえは、本当はずっと前に、すでにもらっているのだとおもう。クリスマスの歌が幼い子たちを笑顔にして、冬の冷た>>続きを読む

幸福なラザロ(2018年製作の映画)

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わたしの中に、もう何年も前から存在している物語がある。一人の少女と一匹の獣がいろんな惑星に移り住みながら生きることを続けていく話で、頻繁に続きを考えるわけではないけれど、年に何度か、突然に彼女たちのこ>>続きを読む

EO イーオー(2022年製作の映画)

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かれの、深い海の果てを留めたような目や、風におどらされる穂のように動く耳や、大地に沈み草花をかきわけるつま先を見ながら、もしも、自分の目に映るもので永遠があるのならば、こういうものであってほしい、と心>>続きを読む

父を探して(2013年製作の映画)

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波打ちぎわで、さあ走って、と言われた子どもたちは、一斉に走りだした。寒さで指さきがわからなくなるのも、赤くなった頬が痛むのもかまわず、走っていくかれらの、逃げていく魚の群れのように揺れるマフラーは、夜>>続きを読む

Blue(2018年製作の映画)

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眠ることは記憶が燃えることだ。眠ることは心が濡れることで、眠ることはからだが蠢くことで、眠ることは、どこかとおくとおい場所へいってしまうことだ。ねむることは、たえることない鼓動そのもの、目にみえないた>>続きを読む

ポゼッサー(2020年製作の映画)

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さっきまで人を殺していたというのに、その夢を悪夢とは呼ばないときがある。ただ、こう話す、「昨夜人を殺す夢を見たの」と。「悪夢だね」と顔を歪められてはじめてそう呼ぶべきなんだと気づく。どんなふうに呼んだ>>続きを読む

ブエノスアイレス恋愛事情(2011年製作の映画)

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いつもなにかが悲しくて、いつもなにかを悲しむという贅沢の中で息をしている。と、数日前のわたしは書いていて、今も同じ気持ちで、おもえばもう何年も同じ気持ちだ。「なにもかも忘れられたら楽だろうな」って、な>>続きを読む

ジョン・ウィック(2014年製作の映画)

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2年くらい前に、飼っていた犬を亡くして仕事もできなくなるほど落ち込んでしまった知り合いがいた。彼から、飼っていた犬との散歩の話を聞いたことがあった。そのときわたしの頭の中にあった、枯葉がいっぱいの道、>>続きを読む

キル・ビル Vol.2(2004年製作の映画)

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ザ・ブライドが、ゴーゴー夕張との決闘の最後に見せたあの表情と、ビルとの再会の瞬間に見せたあの表情が、わたしの中でどうしてかものすごく重なり、それだけをたよりにしてわたしはザ・ブライドというキャラクター>>続きを読む

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022年製作の映画)

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死んだほうがいいくらいの痛みが、気が狂いそうになるほどの怒りが、一生涯忘れることのないだろう恐怖が、どんなにしつこく人を苦しめるのか想像したことがあるかと、いつも、自分自身を含めたすべての人に問いたい>>続きを読む

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)

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冬の日の夕方、母が台所に立ってお米をといでいて、捲っていた袖が落ちてくると、「海ちゃん、ママの袖直してくれる?」とわたしを呼ぶ。その頃、まだわたしは母よりもずっと背が低くて、まだ母の手にも顔にも皺ひと>>続きを読む

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)

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思い出すとき、わたしを孤独から救い出してくれるんじゃなくて、わたしを孤独へとかえしてくれるひとだったから、好きになったのだとおもう。家までの道を歩きながら、夜は、街の遠くのほうの音までよく聞こえること>>続きを読む

不安は魂を食いつくす/不安と魂(1974年製作の映画)

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すべてを許して、誰のことも非難せず、泣いている人のために働き、それ以外はただこの世界の未来のことを信じて笑っていられたなら、それはとても、清く正しい生き方だと言えるのかもしれない。わかっているのに、ど>>続きを読む

ノベンバー(2017年製作の映画)

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あなたの両眼の色があれば絵を描けるだろう、それさえも失ったときは、あなたの呼吸の音を憶えていられたら、わたしは暗い夜の中、死ぬまで踊りつづけることができる。熱のせいで、煙雨(けぶ)るように濡れた真夜中>>続きを読む

由宇子の天秤(2020年製作の映画)

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今、最も記憶に新しいのが、あるドラマのキャストの訃報が報じられたときのことだ。他のキャストたちに対して追悼の投稿を押し付ける声が、ネット上で多く上がっている様子を見た。とても言い表せはしないくらい、重>>続きを読む

シンプルメン(1992年製作の映画)

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わたしは人生でたくさん言葉を書いたから、わたしの部屋は、きっとよく燃えるんだろう。遠くへ行かなければいけないときかならず持って出る本や、どこにいてもわたしを抱きしめにきてくれる映画、一歩ずつ確かに歩い>>続きを読む

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