海さんの映画レビュー・感想・評価

海

Blue(2018年製作の映画)

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眠ることは記憶が燃えることだ。眠ることは心が濡れることで、眠ることはからだが蠢くことで、眠ることは、どこかとおくとおい場所へいってしまうことだ。ねむることは、たえることない鼓動そのもの、目にみえないた>>続きを読む

ポゼッサー(2020年製作の映画)

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さっきまで人を殺していたというのに、その夢を悪夢とは呼ばないときがある。ただ、こう話す、「昨夜人を殺す夢を見たの」と。「悪夢だね」と顔を歪められてはじめてそう呼ぶべきなんだと気づく。どんなふうに呼んだ>>続きを読む

ブエノスアイレス恋愛事情(2011年製作の映画)

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いつもなにかが悲しくて、いつもなにかを悲しむという贅沢の中で息をしている。と、数日前のわたしは書いていて、今も同じ気持ちで、おもえばもう何年も同じ気持ちだ。「なにもかも忘れられたら楽だろうな」って、な>>続きを読む

ジョン・ウィック(2014年製作の映画)

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2年くらい前に、飼っていた犬を亡くして仕事もできなくなるほど落ち込んでしまった知り合いがいた。彼から、飼っていた犬との散歩の話を聞いたことがあった。そのときわたしの頭の中にあった、枯葉がいっぱいの道、>>続きを読む

キル・ビル Vol.2(2004年製作の映画)

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ザ・ブライドが、ゴーゴー夕張との決闘の最後に見せたあの表情と、ビルとの再会の瞬間に見せたあの表情が、わたしの中でどうしてかものすごく重なり、それだけをたよりにしてわたしはザ・ブライドというキャラクター>>続きを読む

SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022年製作の映画)

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死んだほうがいいくらいの痛みが、気が狂いそうになるほどの怒りが、一生涯忘れることのないだろう恐怖が、どんなにしつこく人を苦しめるのか想像したことがあるかと、いつも、自分自身を含めたすべての人に問いたい>>続きを読む

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)

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冬の日の夕方、母が台所に立ってお米をといでいて、捲っていた袖が落ちてくると、「海ちゃん、ママの袖直してくれる?」とわたしを呼ぶ。その頃、まだわたしは母よりもずっと背が低くて、まだ母の手にも顔にも皺ひと>>続きを読む

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)

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思い出すとき、わたしを孤独から救い出してくれるんじゃなくて、わたしを孤独へとかえしてくれるひとだったから、好きになったのだとおもう。家までの道を歩きながら、夜は、街の遠くのほうの音までよく聞こえること>>続きを読む

不安は魂を食いつくす/不安と魂(1974年製作の映画)

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すべてを許して、誰のことも非難せず、泣いている人のために働き、それ以外はただこの世界の未来のことを信じて笑っていられたなら、それはとても、清く正しい生き方だと言えるのかもしれない。わかっているのに、ど>>続きを読む

ノベンバー(2017年製作の映画)

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あなたの両眼の色があれば絵を描けるだろう、それさえも失ったときは、あなたの呼吸の音を憶えていられたら、わたしは暗い夜の中、死ぬまで踊りつづけることができる。熱のせいで、煙雨(けぶ)るように濡れた真夜中>>続きを読む

由宇子の天秤(2020年製作の映画)

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今、最も記憶に新しいのが、あるドラマのキャストの訃報が報じられたときのことだ。他のキャストたちに対して追悼の投稿を押し付ける声が、ネット上で多く上がっている様子を見た。とても言い表せはしないくらい、重>>続きを読む

シンプルメン(1992年製作の映画)

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わたしは人生でたくさん言葉を書いたから、わたしの部屋は、きっとよく燃えるんだろう。遠くへ行かなければいけないときかならず持って出る本や、どこにいてもわたしを抱きしめにきてくれる映画、一歩ずつ確かに歩い>>続きを読む

台風クラブ(1985年製作の映画)

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この唇から、ただなんとなく出てくる言いなれた言葉が、あのときは涙みたいだと思った。何もかもわかったような顔して話すことに、「そうだよね」って言うときあなたの友だちでいたくて、「そんなはずない」って言う>>続きを読む

慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ(2014年製作の映画)

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酔いが回った帰り道のおぼつかない足取りのように、音や温度だけを頼りに残っている記憶のように、わたしが知っているわたし自身のことやあなたのことは、あまりにあいまいで、ある日突然にすべての意味を失ってしま>>続きを読む

東京上空いらっしゃいませ(1990年製作の映画)

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わたしのしたいことからはじめはなくなって、次にあなたにしてほしいことがなくなるんだろう。わたしはあなたの手をひらいて言う。あるべき姿なんて放して、辞めたくなったら仕事を辞めて、くだらない冗談で一晩中わ>>続きを読む

愛しきソナ(2009年製作の映画)

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はじめての深い悲しみは、家族のもとで起きたはずなのだから、さいごの深い悲しみも、家族のもとで起きるのかもしれないとおもう。けれどどんな苦痛も、わたしがあなたを愛しているからうまれるのだということを、忘>>続きを読む

トラスト・ミー(1990年製作の映画)

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生きてきたあなたの時間のすべてを知って愛してあげられたとき、わたしはもう二度と泣かなくていいくらいつよくあたたかいひとになっているとおもうの。ねむるまえ、話せることと話せないことのさかいめを何度もあい>>続きを読む

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)

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恋は人知れない夢のようで、愛は退屈なほどおだやかで、壮大な絶望はそれ自体がはげしく瞬いて、そして清らかで、誠実だ。いつもこの心の藪の奥にかくれて世界をみているつもりだったから、わすれものをすることも、>>続きを読む

スターフィッシュ(2018年製作の映画)

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数日まえ、夢をみて目がさめた。わたしは泣いていて、だけど悲しかったわけじゃなくて、安心していた。夢の中で、だれかと二人きりで、そのひとのかおすら見なかったけれど、ただわたしは顔さえ知らないそのひとのす>>続きを読む

お引越し(1993年製作の映画)

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 だれといても孤独であるようにと絡繰られて生まれてきたわたしたちにとって、映画は魔法だ。映画はイメージであり、詩であり、小説であり、音楽であり、ダンスであり、物語であるけれど、映画はイメージでなく、詩>>続きを読む

ノー・ホーム・ムーヴィー(2015年製作の映画)

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完成した家族がこの世のどこかにたったひとつでもあるだろうかと思う。美しいだけの親子が、幸せなだけの展望が、嘘ひとつない過去が、暮らしを覆い隠してきた家の中にはたして存在し得るだろうかと思う。暗い空のも>>続きを読む

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)

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夏休みももうすぐ終わる頃だった。わたしと、ママと妹と、そのひとの4人で、夕方、幹線道路沿いにあるファミレスに入った。彼はわたしの父親じゃない。ママの恋人だった。覚えているかぎりでは、わたしが彼に会った>>続きを読む

永遠が通り過ぎていく(2022年製作の映画)

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わたしは狂っているから、夜になったらこの肌に日焼け止めを刷き、空をあおいで狭すぎると泣き、冬がくると下着一枚になり、海まで出たのち「飛んでゆきます!」とさけぶ。何百年も読むものには困らないくらいのたく>>続きを読む

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)

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伸ばした首、曲げた膝、息を吸うたび膨らむ胸、あなたの持つ心がどんなかたちをしているのか知りたくてただみえている体をみつめている。あなたのからだが彼と彼女を通り過ぎ、わたしのところまでその温度を波打たせ>>続きを読む

《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐって(1975年製作の映画)

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20代の監督に何度も質問や意見を繰り返す40代の役者。シャンタル・アケルマンとデルフィーヌ・セイリグのその姿を見ていた。ジャンヌという女性をひたすら追い続けるあの静かな作品の裏で、ここまでの対話や受け>>続きを読む

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)

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生きるわたしたちの手はよごれ続けること、わたしただひとりの存在に何の価値も意味もないこと、苦痛と闘っていくことはやさしくないこと、あいするということはやさしいだけではいられなくなっていくということ、悲>>続きを読む

たまねこ、たまびと(2022年製作の映画)

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小西修さんが、長い救済活動を通して世界は少しでも変わったかと聞かれたとき、変わっていないと言い、終わらないと言い、自分が死んだあとも続くんだと言い、そのかおや背景の河川敷の姿を見ながら、この90分で映>>続きを読む

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)

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広島の映画館に本作を観に行った6年前の今頃のことをよく覚えていて、あの頃まだ自分が10代だったことに驚く。映画を観たあと乗り込んだエレベーターの中で、この作品に圧倒され何も言えなかったにも関わらず、何>>続きを読む

セイント・フランシス(2019年製作の映画)

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わたしが傷だらけであることが、わたしが疲れ切っていることが、わたしがもう後戻りなんてできないことが、今までずっと何でもないことで、これからもずっと何でもないことでありつづけるみたいに、照らし出される日>>続きを読む

アフター・ヤン(2021年製作の映画)

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スーパーマーケットの出入り口へ向かっていると、西陽がまっしろで、なにもみえないくらい眩しくて、するとチリンチリンチリンと鈴の音がきこえて、それが不思議すぎて、わたしだけにきこえる音みたいで、何の音だろ>>続きを読む

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)

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わたしが今死んだら、猫はどう思うだろうかと考えたことがある。調べてみると、猫の中には死という概念がなくて、たとえば飼い主が、ある日突然死んでしまったら、ただ、「帰ってこないな」と不思議に思うらしい。そ>>続きを読む

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)

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長崎に旅行に行ったときに泊まったホテルで、朝、「ポーン」というピアノのような音に眠りから起こされたことがあった。いつもどんなアラームでも止めたあとしばらくは起き上がれないのに、その日、特別大きいわけで>>続きを読む

CURE キュア(1997年製作の映画)

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黒沢清の映画からきこえてくる「たすけて」は「わたしをたすけて」じゃなく「わたしの感じているような暗やみそれ自体をたすけて」だから、そこにある、孤独と悲しみには終わりがないんだ。電球の切れた物置の片隅や>>続きを読む

メッセージ(2016年製作の映画)

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あなたは、真夜中、窓を打つ雨の音に眠りから呼び起こされ、伸びをした指先にふれた窓枠の冷たさに今が冬であることを思い出す。顔を出せるくらいまで、音を立てないようにそっと窓を開けて、吹き込んでくる風が、あ>>続きを読む

アイ・アム・レジェンド(2007年製作の映画)

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この一匹の犬と、その一人の飼い主が、居なくなったあとの世界に関心を持てず世界が救われたとか伝説になったとかどうだっていいよといつも思ってしまう自分が少し怖い。文明の末路を描いた、いわゆるポスト・アポカ>>続きを読む

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)

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あなたをさらっていった幾重もの眠気の波が、わたしの耳もとに這いより、瞼や頬をすべり落ち、あたまの奥にまで、やがて届きはじめる。風と風とがもつれあい、窓を外側から叩くけれど、その間隔もすこしずつ意味をう>>続きを読む

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