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1917 命をかけた伝令のTaiRaのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
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ロジャー・ディーキンスのショーケース映画として観ればそれなりに楽しめる。あとサム・メンデスってやっぱ演劇の人なんだなってのは改めて思った。

全編ワンカット、じゃなくてツーカットだった。長回しワンショット風で全編見せるという手法ありきの映画。脚本は普通に考えたらあり得ない話だけど、この手法を優先した為に押し通されちゃってる感じ。だって1,600人の命が懸かってる伝令に兵士二人だけで敵陣行かせるってあり得ないでしょ。ドイツ軍が撤退したからノーマンズランドは通れるって分かってる状況なら小隊一個くらい出して然るべきだし、そもそも戦闘機飛ばせるならそれで伝令届けられるんじゃ。二人しか出せないのは、単純にロケ撮影の疑似長回しで撮影するのに役者は最少人数の方が楽だから。激しい戦闘地帯を抜けないのも同じく撮影が大変だから。撮影方法ありきで作ったら結果的に抽象的でミニマルな寓話になってしまったのが今作だと思う。それでも映画として成立したのはやっぱサム・メンデスが演劇の人だからで、この映画自体とても演劇的だった。一つの芝居が続いていくのも、舞台が抽象化されているのも色々含めてね。リアルな戦場を描写する作品では決してないし、戦場を体験させる映画でもない。そもそもこの手法で全編描くってやり方は──キュアロンやイニャリトゥに節操なく影響受けたというのもあるだろうけど──確実に戦争FPSゲームの影響もあるでしょう。その点ではやっぱ『コール・オブ・デューティ』や『バトルフィールド1』などには敵わないって。戦場体験型映像の中では凄い領域にあるもん。諸々割り切って観ればやっぱディーキンスの仕事は凄い。廃墟の街を照らす信号弾の光が落下とともに建物の影を動かすのとか、燃え盛る教会の煙の奥から人物の影が迫って来る瞬間とか、あの一連の場面はトータルで良い。トーマス・ニューマンの音楽も大袈裟で撮影の過剰さにマッチしてる。この話が寓話と言ったのは、史実では如何に兵士たちが突撃で無駄死にしていったかを踏まえてるから。主人公が目を覚ましてから始まって(気絶してカットが途切れ)、再び眠りに入るとこで終わる映画なので、ある種の夢の話として観た方が丁度いいかも。兵士たちの命を救うという、叶えられなかった夢の話。
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