はらぺこ

オフィサー・アンド・スパイのはらぺこのネタバレレビュー・内容・結末

1.0

このレビューはネタバレを含みます

ポスターや予告で大きく期待を抱いてしまった分、残念という印象。
当時の街並みや風俗の再現は忠実で、画面も美しく見応えあり。
ただ、筋書きがあまりに退屈。
勿論、史実を元にした作品であるから劇的な展開はそこまで期待していなかった。
とはいえ、作品の根幹となるテーマの設定や散りばめた要素の回収、物語のオチの付け方などがかなり雑であり、満足できるような完成度ではない。
前半は淡々と歴史的事実を映像化していくような丁寧な描写で、当時の腐敗した政治体制や社会の風潮、事件の経過や展開もよく分かる。だが、後半になり、突如として映像ではない文字(字幕)の語りにより場面が進行する。これが良くない。一気に置き去りにされた感覚を受ける。
如何にして劣勢だった裁判を覆すことができたのか、ゾラやピカール、ドレフュスは無罪を勝ち取るまでにどんな日々を過ごしたのか、無罪が確定したのち軍の上層部や真犯人はどのような扱いになったのか、フランス国民たちのピカール達への態度・見方はどう変化したのか、などの諸事がまるで語られない。
物語の後半までピカール達ドレフュス擁護派はかなりの劣勢だっただけに、それがいきなり覆るのは不自然で唐突としか言いようがない。
もしかしたら、この監督は自身がユダヤ系ということもあり、ユダヤ人に対する社会全体の差別意識や腐敗した正義の容貌をメインテーマに作品を作りたかったのかもしれない。
そうであるならば、たしかにそのメインテーマは概ね描き出せているように思うが、もう少し丁寧に作品をまとめてもいいだろう。メインテーマを表現できればそれでいい、というのはいささか乱暴な態度に思う。
興行的な収入を得るべき「映画」というメディアにおいて、観客の反応を無視したものは駄作と呼ばざるを得ない。
この映画は史実を視覚・聴覚的イメージから認識することに一応寄与はするものの、それ以上の娯楽作品・映像作品としての価値はなんら感じられない。
製作費が相当足りなかったのか、資料が存在しなかったのか、このような出来になった理由は分からないが、キャストや展開、題材も申し分なかったため、勿体無いと言う他ない。
強いて良かった点を挙げるならば、主人公のピカールが純粋な正義として描かれておらず、清潔さと不浄の両面を持つ人間的な人物として描かれ、ドレフュスとの関係性もあくまで理性的かつ冷徹なものとして終始描かれていたことだろう。ここには恣意的な歪曲や感動的な演出はしない、歴史映画において“「創作」は行わない”という監督の強い意志を感じられた。
はらぺこ

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