フォルスタッフ

劇場版 SHIROBAKOのフォルスタッフのレビュー・感想・評価

劇場版 SHIROBAKO(2020年製作の映画)
4.3
水島努監督という人物について皆はどのように思うだろうか。
売れっ子アニメ監督?
中々一流になれないアニメ作家止まりの人物?
いい加減元ネタ出してくるのがしんどい?
……思うに彼は、今敏に魂を焼かれ、パゾリーニに憧れ、押井守にも庵野秀明にもなれない、けれども今敏やパゾリーニのような死に方は出来ない。そういう人物だと私は思う。
ここでようやく本編の話。劇場版に入ってボロボロになったムサニが、新人だった主人公・宮森あおいの努力により劇場映画を作る話……まあ、劇場版で劇場映画を作る話を描くという笑ってしまいそうなほど分かりやすい作劇の作り方はともかく、アニメ作家らが一流になるにつれ実写映画に走ったり、超大作ばかり作るようになったり、かと思えば早死したりするこのアニメ業界において宮森あおいは水島努の正の自己投影があるように思える。本人曰く、SHIROBAKOの高梨太郎は自身がモデルだそうだが、このキャラの声優は吉野裕行で、この声優は先に出した今敏のアニメ作品『妄想代理人』のアニメ制作回(第十話)で要領が悪く無能で恨まれる制作進行である猿田直行の声優でもある……そういうところ。そう、水島努の”そういうところ”が私は嫌いなのだ。庵野秀明は実写に、宮崎駿は大作を描く晩年の円熟期に入り、押井守も帰ってこず、今敏は向こう側にいて、ポストジブリはどうやら新海誠でほぼ本決まりという中で、アニメ(萌え)映像作家というポジションしか残されなかった彼の何か苦しげな吐息が感じられるような作品ではあるが、私はこの作品自体は好きである。