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Redのsのレビュー・感想・評価

Red(2020年製作の映画)
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誰が見ても幸福そうで誰もが羨む完璧な家庭の崩壊。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」。
バッティングセンターで構えを教えながら夏帆にキスする柄本佑に「するならちゃんとやって」と真顔で返す夏帆、それに対して「お前意外とエロいな」と放つ柄本佑のパンチライン。大笑いして夜の浅草仲見世通りを追いかけっこしながら自転車二人乗りするこの流れだけがこの映画に唯一与えられた世間一般に賛同を得られる幸福な絵面だった。そんな風にして夏帆の重い鎧を降ろし、心身を解放してくれるニューカマー・柄本佑の元には結局靡かず、イカれた夫の家庭にも帰らず、最終的に最愛の元恋人・妻夫木聡の元へ帰ることが"本当の自分らしい人生"という結論。それは夏帆の母が別れ際に放った「人間ってさぁ、どれだけ惚れて死んでいけるかじゃないの?」の言葉に集約されていて、そういう母から生まれた娘に必然的に科されたどうしようもない運命なんだろうとも思う。それを思うと遺伝や血の繋がりというのはある意味で呪縛だ。そして"夏帆らしさ"を履き違えたまま女を道具のように扱い続けたこの夫には、涙を流す権利も泣く子供を抱きしめる権利もないはず。
「あの人、一緒にいても一人で生きてる感じがする」のは自分にとってもきっとそう、今更それに焦ることもそれを変え得る劇薬もなく、これからも悲劇的なものに突き動かされながら平気な顔して人生を生きていくんだろう。そしてそんな人生はありがたいことに他人から見れば喜劇だ。
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