Yukinobe

マトリックス レザレクションズのYukinobeのネタバレレビュー・内容・結末

2.8

このレビューはネタバレを含みます

ここへ来てまさかの新作である『マトリックス レザレクションズ』
そもそも続編というのはそれだけでネタにされるくらい難しいのに、一度きちんと幕を閉じたはずの物語に続編を作るというのは、よほどのアイデアでも思いついたか、もしくはやり直し続編か、と思っていたら1作目の繋がりだという。なるほど、そうきたかと。予告が出て、やたら青のピルか、赤のピルか、を強調する。もしかすると、1作目でネオが違う選択をしたら、のイフものなのか?などと妄想は膨らむばかり。さて、どんな物語が展開されるのかとワクワクしながら鑑賞したところ、確かに予想していなかった部分はあるけど、正直必要のない続編だった、と感じてしまった。

『マトリックス』といえば華麗なアクションと先鋭的な映像、みたいなイメージだけど、自分の中ではストーリーも結構しっかりしていたイメージだった。何に影響を受けているかは明確すぎたけど、哲学的な問いかけを逃げずに軸に持ち込み、かつ捻りを効かせた物語を提供してくれたと思う。まあ、結構愛に逃げてるな、というところもあったけど、三部作は結構繰り返し観るほど思い入れのある作品。
だからこそ、捻ったと見せかけただけの入り口と、そこは捻りもしないのかよと思える展開と、何より監督のエゴが出過ぎているのが抵抗があった。

入口はよくできていると思う。マトリックスがゲームで、開発したのがネオことトーマスということで、観ている側を一気に食らいつかせる。トリニティはティファニーという名で別の人と結婚してるし、そもそもここはマトリックス内なの?現実なの?  おまけに普通に旧作にもある退廃した現実と思われる世界もあるし……。ああ、ここからどうなっていくのだろう、どんな展開が待ち受けてるんだろうって、グイグイ引きこまれてしまった。ちょっとやりすぎな気はしたけど……。

んだけど、結果、たどり着いた真実が、それかーい、となってしまった。マトリックスを維持するため、エネルギーを確保する為にネオとトリニティを蘇らせたのだ、というのはあまりにも考えがない気がする。
モーフィアスに別人がキャスティングされている理由が明確にあったり、スミスも姿が違う理由を一応説明していたりと、きちんと設定を作ろうとしているのはさすが。世界観を作り込もうとしている。
なのに、ネオとトリニティーは蘇らせましたって、どうせならこの2人をモーフィアスのような存在にしたほうがよかった気がする……。生き返らせました、は命が一気に軽く感じられてしまうし、だったら人間たち量産すれば、もっと量産できたりしない?クローンだってできんちゃうの?などの余計な雑念を生んじゃうのよ。よほど展開でうまくみせるか、その他納得できる設定を組み立てないと、陳腐に見えてしまう諸刃の剣でしかない。なんでこのアイデアを採用したのよ……。
そして、やっぱり愛の強さに焦点が当たっていく。それ自体否定はしないけど、三部作と同じことをやるのなら、ここまでして新作を作る意味ってあったのかなぁ……、と感じてしまった。

では、なぜ新作を作ったの?というと、作品内にこれでもかと詰め込まれた監督のエゴ、悪言い方をすれば愚痴と自己批判の塊を吐き出したかったから、と思ちゃう。それほど、作品内には多くのエゴが詰め込まれていた。

作品を作るとき、監督をはじめとするクリエイターの個性が出ないと、そもそも監督を選ぶ必要性がなくなる。でもそれは、演出であったり、カメラワークであったり、セリフであったり、ストーリーテラーであったりするわけで、監督の思いをそのまま誰かに言わせるのは違うでしょ、と思うのだ。作品として観た後に、監督はこれを言いたかったんだな、と感じるのがいいのであって、ガンガン台詞に混ぜ込んで、終いにはまんま続編会議だのというシチュエーションを作って、猫動画だ、というのはまるで違うきがする。冗談だとしても、笑えにゃいのよ。
いや、わたしも思いますけど、ファスト動画とか、わっかりやすく台詞で説明する作品ばっかになってきていることとか、皆がいいっていうから良いって言ってるんでしょうって思える現象とか、百億の男にするとかアホなことばっかな世界で嫌気さすけども、それを劇中でまんまなシチュエーションで言わせるのなら、何かの番組に出て訴えた方がよっぽど届くと思うのよね。それは、作品内では本当にやらないで欲しかった。

どれほどのことを言われても、その後に猿真似みたいな作品が出てそっちがバカみたいに売れたとしても、それで嫌になったとしても、『マトリックス』が世界に大きな影響を与え、多くの人々を魅了し、それを機に業界に入った人間や、なんだったら生き方すら変わった人間だっているわけだ。それは消えない事実なんだから胸を張って欲しいし、そんな些細なことなど気にせずに、心から作品と視聴者と自分のやりたいことを見つめ、伸び伸びと続編を作って欲しかった……。
そんな想いに駆られた作品だった。

でも、なんだかんだで見入っちゃうのよねー。
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