幽斎

ザ・レポートの幽斎のレビュー・感想・評価

ザ・レポート(2019年製作の映画)
4.6
レビューをご覧の方で本作を未見の方、且つAmazonプライム会員の方は、この作品を見るのは最早「義務」と言うべき傑作。この映画すら抹殺しようとしたCIAとは何様だと言いたい。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

「9.11」の真相がケネディ大統領暗殺事件に並ぶアメリカ建国最大のタブー視される様に、対テロ戦争が如何に大義名分が無かった事をアメリカ国民には知る権利が有る。私は物理学の専門家では無いが理系の国立大学を卒業した者として、航空機がビルに激突して、建物「だけが」跡形も無く崩れ機体が消滅する等有りえない。本作は対テロ戦争の人権侵害を暴露する事実を基に作られてる。

アメリカは自己反省出来るのが救いだが、映画としては「大統領の陰謀」ウォーターゲート事件を暴いた傑作を前例に、9.11は「ゼロ・ダーク・サーティ」が初めて。ウサーマ・ビン・ラーディンを殺害(拘束では無い)する為、要塞化した自宅を急襲する際にCIAが極秘開発した史上初のステルス・ヘリコプター「Comanche」登場。その後も「バイス」「記者たち衝撃と畏怖の真実」。本作は裏の裏まで暴露する。

原作はアメリカを代表するノンフィクション・ライターKatherine Eban著「Rorschach and Awe」。最近では「ジェネリック医薬品の不都合な真実」NYタイムズベストセラー、ジェネリックがコスト削減の為に品質に関わるデータを偽装した事を暴いて一大スキャンダルに発展。私からもお願いしたいが、調剤薬局ではキッパリと医師の処方箋通りの薬を受け取って欲しい。

Scott Z. Burns監督はSteven Soderberghと親交が深く、見返りを求めない骨太なプロデューサーとしてハリウッドでは一目も二目も置かれてる。代表作「不都合な真実」「コンテイジョン」「サイド・エフェクト」説明は不要だろう。一方で「ボーン・アルティメイタム」「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」脚本家として多彩な一面も見せる。

校正を全てのハリウッド・メジャーに見せたが誰も首を縦に振らない。政権批判には後ろ向きでインディペンデントでスタート。Annette Beningが参加する事でクオリティは保証されたも同然だが、彼女は政治的発言の多さで距離を置かれ、オスカーで2度もアカデミー主演女優賞を逃してる。何れもHilary Swankに浚われてるが単なる偶然だろうか?。共演は女性人気でハリウッド№1にしてオスカーに近い男Adam Driver。サンダンス映画祭でDaniel J. Jones本人も登場して喝采を浴びた。

製作がスタートすると次々とプロデューサーが居なくなる摩訶不思議な経緯を辿る、当初の製作費が1800万$から800万$まで減った。予定された2カ月の撮影も資金不足で1カ月に短縮を余儀なくされた。Steven Soderberghの支援で作品は完成したが、Annette BeningやAdam Driverへのギャラの支払いは約束通り出来なかった。サンダンス映画祭でも名乗りを上げるディストリビューターが現れない異常事態。其処で手を挙げたのがAmazonスタジオ。作品の性質から先に劇場公開する男気を見せたが、配信は2度延期された。なぜ1カ月以上配信が遅れたのか、コメントはしてない。

私は戦闘機ファンで、どの程度かは「トップガン マーヴェリック」のレビューも是非ご覧頂きたいが、パイロットは単に飛ばすだけでなく、墜落した際の対処法も入念に訓練する。それが本作で登場する「SERE」Survival, Evasion, Resistance, Escape。脱出後のサバイバルと捕虜にされた場合の対処方法。これを天下のCIAはリバーサルで「3D」Debility, Dependency, Dread。新しいメソッドだと嘯く。拷問を幾らエンベリッシュメントしても、アホがパワーポイントで述べてるに過ぎない。

私の弟は国土交通省に勤めてるが、話を聞く度にインテリだと勘違いする官僚ほど現場を顧みないお粗末なプランを出してくるらしいが、本来なら工学系らしく科学的な知見に基づいた計画を出すのが当たり前。しかし、CIAは小学生の様な拷問プランを承認する。9.11の真相がCIAさえ超越した理由とは言え、人はどんなに偉くても自分のプライドを守る為に思考停止する事を、本作は詳らかにする。

CIAは大統領の側近の国家情報長官の直属。Central Intelligence Agency、バージニア州ラングレーの本部は正しくはジョージ・ブッシュ情報センター。インテリジェンスを司る者が「私の考えるうる最強の尋問」と言ってケツの穴からチューブを挿して食事させる事の何処がインテリジェンスなのか。家系とか学歴とか知能指数が現場では全く意味の無い事だと私も日々痛感するが、容疑者に対して「学習的な無力感を与える」と言うが、底無しに愚かなお前達CIAの事じゃないのか?。

ポリティカル・スリラーと言えば「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」だが、レビュー済「モーリタニアン 黒塗りの記録」の方が遥かに真実に迫った力作で、ヤッパリSteven Spielbergは綺麗事しか描けないと失望したが、本作は主人公Daniel J. Jonesの正に孤軍奮闘、彼は巨大組織の1つの「駒」として描かれる。秀逸なのは彼のプライベートは一切描かれず、政治的な主導権争いとか、保身の為の隠蔽工作とか、官僚って何の為に、誰の為に働いてるのか?。Adam Driverが情報委員会に対して、ライトセーバーを握りしめ破壊する事を全力で応援したい(笑)。

国家の安全や正義を口実に不都合な報告は隠蔽される。Annette Beningの「報告書を完成させるだけで無く公表する国で有りたい」。この言葉はソックリ自民党にお返ししたい。日本は政治家を守る為に官僚が報告書すら作れない、作っても黒塗りで隠蔽される。会話の中で登場した「Edward Snowden」の様に、危険に冒されようとも、真実を世界に発信する信念を持つアメリカ人は、まだ救いが有る。私も本作を断じる程の知見は持ち合わせないが、それでも心の底から沸騰する「何か」を感じずには居られない。

本日の名言「紙は法を守る為に使うものだ」是非、貴方の会社の壁にも貼って欲しい。
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