しゅんまつもと

街の上でのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
5.0
俯瞰が欠如した街の映画である。悪い意味で言っていない。社会を描き出そうとする映画が社会を描く必要がないように、この映画では存分に"人"にフォーカスする。それがすべて。人がすべて。人の映画は街の映画になるし、街の映画は時代の映画になる。
その証拠に冒頭、夜の下北沢の路上に立つ荒川青を捉えたショットだけで涙ぐんでしまった。だってもうあの頃の下北沢はないから。好きだったお店もなくなってしまった。あの人ももういなくなってしまった。

期せずして2020年から2021年という完全に断絶された1年を跨いで延期されてしまった事実がこの映画が内包する「なかったことにしない」というテーマと共振する。
この一年でなくなってしまったものや場所のことも、なかったことにしないようにこの映画は在る。
(時間、というのも大事なテーマである。留守電を使った時間差の演出やラストに回収されるケーキの描写も決まってる。)

人の映画である、を体現するように全ての出演者の魅力がむちゃくちゃに溢れている。若葉竜也はもちろんのこと、4人のメインキャスト女性陣は全員があまりに素晴らしすぎて全員好きになってしまう。
とりわけ城定イハを演じる中田青渚さんはまじでヤバい。ヤバいとしか形容できないヤバさ。あの眼球の引力よ。あの発話よ。イハの部屋での青との二人の会話長回しはまじでヤバい。部屋から出ていく彼女が去り際に残した台詞とその表情、カーテンを開けて朝日を浴びる彼女の表情、まじでとんでもないので絶対見てください。

なんだか久しぶりに満員の映画館で大爆笑する空気を味わった。この空間が好きだったなぁというのを思い出した。