Paula

グリーン・ナイトのPaulaのネタバレレビュー・内容・結末

グリーン・ナイト(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

He tened quen he schulde telle,
He groned for gref and grame;
Þe blod in his face con melle,
When he hit schulde schewe, for schame.
‘Lo! lorde,’ quoþ þe leude, and þe lace hondeled,
‘Þis is þe bende of þis blame I bere in my nek,
Þis is þe laþe and þe losse þat I laȝt haue
Of couardise and couetyse þat I haf caȝt þare
上記のセンテンスはガウェイン卿が自分自身が犯した恥じる行為をアーサー王に包み隠さず事の顛末を語る勇気ある行動として捉えるとしても... 500年ほど前に書かれた作者不詳でしかも地方の方言も含まれているので一目見て難解と分かる原作を今更、読む気はサラサラないけれども...載せてみました。

Green Knight: Well done, my brave knight. Now...
      Off with your head.
あらかじめ予想はしていても、主人公のガウェイン卿のアーサー王伝説のフェアリー・テールをベースにした映画の話の筋の中では彼が円卓の騎士ではない設定はどうかしている?と思っていると最後には原作とはかけ離れた "twist ending" つまりどんでん返しで締めくくられている。これって、原作の内容を知らない方がいいのかもしれない。へたに知ってしまうとその違いからギャップを強く意識して感じてしまう恐れがある。
だが、それが反ってイギリスの14世紀を代表する質の高い物語として韻を踏んだ詩的に創作された原作やそれとは全く別のストーリー展開を見せている映画自体としては個人的には騎士道精神を別の角度から解釈して描いているのでどっちもどっち的に塩梅はいいのかもしれない。
それと共時性を感じさせるのが、1984年製作のファンタジー・アクション映画『勇者の剣(つるぎ)』
緑の騎士を名優ショーン・コネリーが演じていたけど、一言でいってコスプレ・マニアしか見ない様な超が付くほどの駄作でコネリーともあろう人が何故出演依頼を断らなかったのか?不思議な一本と言えるかもしれない。ちなみにこの作品もラストのエンディングと時代背景を改変をしている。

5 世紀後半から 6 世紀初頭にかけて、アーサーという力強い王がサクソン人を撃破した伝説の人物の物語を作者不詳の原作と同じ14世紀ごろに設定を改変するためだけに固有名詞のアーサー王の"ア"の字も出さずにただの名無しの"KING"として、またガウェイン卿の母親がアーサー王の妹モーガン・ラ・フェイと信じられているのにただのブラック・マジックを操る"MOTHER"と曖昧にしか役名にしていないのは映画製作者が小説の登場人物を匿名にすることで小説と映画との違和感を少なくし和らげる配慮と考えた方が本作を好きになればそうも思えるのかもしれない。
その理由として作中、ガウェインがお乳がコボレそうな城主の嫁さんの愛撫に想わずお漏らしをしてしまうシーンから原作と大きく異なる演出を映画製作者はしたかったのかもしれない。原作では騎士としての忍耐を試されている。だからこの映画の製作者はマーク・トウェインの『王子と乞食(失礼、原作を尊重して)』の王様を最下層の民にするぐらいに騎士道精神を小馬鹿にしたかったと受け止められても仕方のない脚本と言えるかもしれない。

アイルランドのキルデア州セルブリッジにあるキャッスルタウンハウスエステートの端にあるコルク抜き型の建物ワンダフルバーンを代表するようにアメリカはもちろんカナダにもロケをしていて、それらの風光明媚で奇麗な深みのあるグリーンを基調とした自然な色彩は、感動するに足りるかもしれないけれど話の流れの冗長過ぎるところを気にしない様な、この映画をお気に入りの方なら凝りに凝った衣装を含めて美的には優れていると思われるに違いない。

ところが伝統的な騎士の 5 つの美徳である、友情、寛大さ、純潔、礼儀、信心深さ、全てにおいてこの映画は我々、観客である視聴者をことごとく裏切っている。最後の最後になって、そのしょく罪として、ラストに緑の騎士がガウェイン卿への賛辞としてこう告げるところでエンディングを迎える。

       "Off with your head"

これをどのように捉え解釈するかは... 受け手である観客次第という事?
ところで、ちなみに女性が鈴をつけるシーンは特定の病気を患っている者や売春婦に対して中世では不浄の意味で一般市民に対しての区別や警告で使われ、しかも売春婦は公の場では髪をショート・カットにする必要もあったとされる。なかなか手厳しい風習と言えばいいのか? 日本でも罪を犯した人は江戸時代には犯罪抑止を目的に始まった「入墨刑」という腕に入れるのはよく時代劇で見る機会があるけれど実際には額にも入れ墨を彫ったりなんかしている。

緑の概念は青色と解釈していた日本...
信号機の色は緑色が本来なのに青信号と呼び、野菜も青々としたと形容する。それは、もともとは日本には、赤、青、黒、白の4色の概念しかなく、その点本作のイギリスの物語『Sir Gawain and the Green Knight』では緑色をした騎士が登場している。イギリスではこの緑色の意味は伝統的に自然とそれに関連する属性である豊じょうと再生を象徴している。それにより生命の源と考えられるのかもしれない。また一方では"生"とは真逆な腐敗や毒性を表す魔術、悪魔、悪をも表してもいた。
ただ勘違いをしてほしくはないのが、怪物のような緑色をした巨人の緑の騎士を悪の権化のようにとらえるのは過ちのように感じるので彼がとてもウィットに富んだ存在なのを本作をご覧になればその意味が分かるかもしれない。

ドラゴンやホワイト・マジックにブラック・マジック... 中世の人があまり発達していない医学の中で生命の危機を常に感じながらファンタジーの世界観を作り上げた遊び心を垣間見ることが出来るかもしれない。
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