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アフター・ヤンのSPNminacoのレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
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家族とは接ぎ木。お茶は宇宙。宇宙とは金魚鉢。終わりは始まり。木と緑に溢れた東アジアン・テイストをふんだんに取り込んで、未来SFの禅問答。そんな風景に馴染んでしまうコリン・ファレル。故障したヤンをどうしたものかと右往左往する父コリンは、佇まいも不条理に困った八の字眉毛の角度も穏やかだ。
車や建物の窓に反射した景色のショットが、観賞魚を入れた鉢(持ち手付きケース)と似て見える。それはきっと、ヤンの見た世界。人々はポットの中でゆらゆら揺れる茶葉。追憶のメモリを再生し、失われたもう一人の家族を想いながら、彼なき世界を漂う。けれどたぶん、ヤンはあちこちに誰かのヤンとして存在するのだろう。何となく、70~80年代映画ならヤンの役柄はデヴィッド・ボウイだったかもしれない…。
性別役割や構成(クローンでも何でもあり)がブレンドされた未来の家族像だけど、それでも家族単位や民族固有文化に拘るのは何故。枝葉が増えても根を持たない寂しさなのか。ヤンから中国文化を教わる養女ミカは、同時に彼自身のメモリを継承する。そうやって形作られていくファミリー・ツリー。
監督コゴナダは小津オマージュの前作『コロンバス』の建築が、今回動かないヤンになって、やはり「残される人」の物語だった。そのうち雨が降るんだろうな、と思ってたら本当に降ったわ。
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