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一寸先は闇のakrutmのレビュー・感想・評価

一寸先は闇(1971年製作の映画)
3.8
友人の妻であり不倫相手であった女性を殺した男性が、妻や友人にそのことを隠しながら暮らす日々に感じる葛藤を描いた、クロード・シャブロル監督のドラマ映画。原作はエドワード・アタイヤの『細い線』という小説。この小説は、シャブロルより先に、成瀬巳喜男によって『女の中にいる他人』という作品として映画化されている。

この映画が素晴らしいのは、映画で描写するのが難しい内面の心理を、映像的な技法や、妻や友人という周囲の人々の非合理と思われる反応を通じて表現している点にあるだろう。そもそも、主人公のシャルルが殺害するシーンをはっきりと描いていない。不倫相手とのSMプレイの中で首を絞めるだけである。また、真相を告げたときの妻や友人の反応が不思議なのも見逃せない。地に足が着いていない、どこかふわっとした感じで話が進んでいくのである。そんな夢や妄想とでも思えるような作品全体が、心理的葛藤を表現していると言えなくもない。

一方で、これとは全く異なる、サスペンス的な解釈(妻と友人の仲)も可能である。実はラストシーンを考えると、こちらの解釈が正しいと思えてならない。そういう意味では、優れたサスペンス映画と言えるのかもしれない。

主人公のシャルルを演じたミシェル・ブーケは、多くのシャブロル作品に出演している常連さん。妻エレーヌのステファーヌ・オードランはやっぱり綺麗。『肉屋』に比べて本作では控えめだが、ラストは怖い。この二人は『不貞の女』でも夫婦として共演している。
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