ねぎおSTOPWAR

オルジャスの白い馬のねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

オルジャスの白い馬(2019年製作の映画)
4.0
東京国際映画祭2019 2本目/9本は日本カザフスタン共同製作「オルジャスの白い馬」
2020年1月に新宿シネマカリテなどで上映されるんですね、一足早い鑑賞。
森山未來さんがカザフスタン人カイラート役で出演しています。
監督はダブルで、日本人竹葉リサさんとカザフはエルラン監督。

上映後のゲストトークでエルラン監督が「まず大地や草木などの自然があり、役者はそこに合わせて溶け込む必要がある」といった主旨のことをおっしゃっていて、とても印象に残りました。

人間を撮るのに背景をうんぬんじゃなく、さすが中央アジアの広大な大地で育った方です。宗教もあるのかもですが、あくまで謙虚に人間が後。

確かにスクリーンに収まりきらない勇壮な山々、決して肥沃とは言えない大地に圧倒されました。冒頭朝日に照らされた馬から湯気が立ち上るんですが、やかましいロシア製のトラックのエンジン音と馬の鳴声もあいまって、何とも言えない気持ちに(そう、これが東京国際映画祭ですよね)なりました。

かつて仕事でモンゴルの奥に一か月いましたが、ユーラシア大陸の大自然って、もう自分はかなわないって感情になるというか・・。だって夜は満天の星。天の川は肉眼で見えるし流れ星なんてぴゅんぴゅん飛んでます。この映画に夜空はないけど、土埃ややさしい風や突然の雷などまさに《大自然》!!


さてさて、1月に上映なのであまり中身に触れないように!


当初このダブル監督は、役者の国籍に従いそれぞれ演出する予定だったとのこと。(ここまでの経緯は映画の公式サイトにかなり丁寧に書かれていますのでそちらを!!)それが始まると、役者出身のエルラン監督が全体的な演出、竹葉監督がストーリーボードという割り振りになったそうです。

上映後に竹葉監督が是非伝えたいとおっしゃっていたのがカザフスタンの俳優たちのことです。まず社会主義国で映画も国営。となると芸術分野ってぽっと出は無理。ロシアの影響が色濃いので役者たちはみんな大学や大学院で演劇を学んだエリートたちだそうですよ!演技法はスタニスラフスキー。これはアメリカのアクターズスタジオ、メソッド論の祖です。メソッド立ち上げたのはロシアでスタニスラフスキー勉強してきた人たち。その後東海岸とハリウッドで仲たがい分派します。・・それは置いておいて、つまりカザフの俳優って内面から人物にアプローチするスタイルですから基本アドリブなどにも強い!その人として自然に反応すればいいわけで・・。

エルラン監督のスタッフは、演技見て構図考えるようなヨーロッパの常識とは真逆で、カメラ決めちゃいます!これは前述の自然が主役なんだから俳優はそこに合わせろ的な発想と符合。竹葉監督もそれを見て「カザフの役者、レベル高っ!」と思ったそう。
出演のみなさんの受賞歴なども公式に掲載されていますのでご覧ください。


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以降はストーリーの行方を示唆することを書きますので、ご注意ください。
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竹葉さんがおっしゃっていましたが、「この映画では、主人公の少年が育ての父と本当の父のふたりを亡くすんです。そして彼が大人になっていく話」だと。
森山さんが本当の父役ですが、それをオルジャスは聞かされません。でもわかっている。わかっているけど聞いちゃいけないから聞かない。暗黙の理解がそこにあります。
そしてラストは観客にゆだねるそうです。人によって取り方は全く違っていいと、ふたりの監督はおっしゃっていました。

公式にありますが、カザフスタンはストーリーよりも情感を大切に映画を観るそうで、その通りの作りです。

良かったらご覧ください。