セッセエリボー

リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイスのセッセエリボーのレビュー・感想・評価

4.7
この時代の西海岸ロックを振り返るとどうしても個人的な感傷に近くなるのは豊饒さの裏返しなので仕方ないと思ったら途中からコミックオペラ、ジャズ、メキシカンルーツにまで飛躍してその都度見事な歌唱を聴かせるのでひっくり返ってしまった。こんな歌える人だったのか…。正攻法の歌声の強さだけで謎の高揚をかき立てられるし曲も全部いい、あとずっとかわいい。こういう丸顔系のディーヴァってアメリカにあんまいない気がする。彼女が引き合わせたイーグルスを従えての「デスペラード」もすばらしいし他ジャンルへの果敢なチャレンジを経てのアーロンネヴィルとのデュエットは何回聞いても掛け値無しに最高。政治的な信条を明かすつもりはないと前置きしながら躊躇なく人種差別を一蹴するのもめちゃくちゃかっこよかった。JDサウザーとの同棲時代に「Only the lonely」ばっかり聞いてたってエピソードは「You're only lonely」と何か関係あるのか。『コレラの時代の愛』の一節を遺して世を去った父との共作曲(Lo siento mi vida)を歌うところ、彼女の「声」の喪失に涙を浮かべるエミルー・ハリス、パーキンソン病と闘うリンダが再び歌とのつながりを取り戻そうとしたときに選択したのがメキシコ民謡であるということ、など何回かマジで泣きそうになった。インタビューの人選も大御所勢揃いで豪華だがライクーダーの青シャツ青帽子青メガネが強すぎて話が入ってこない。