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きっと、またあえるのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

きっと、またあえる(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

息子ラーカブが受験に失敗したショックで飛び降り自殺を図り、病院に担ぎ込まれたアニ。一命を取り留めるが、医師からは「生きようとする気力」の欠けているため、容態は芳しくないことを告げられる。アニはラーガヴの気力を取り戻すため大学時代の親友たちを呼び集め、彼に「負け犬」と呼ばれていた大学時代の物語を聞かせる。

1990年代インドの工科大学の学生寮を舞台に、主人公と仲間たちの友情を描いた青春&スポーツコメディ。
受験の失敗を苦にして瀕死の状態となった息子に「父さんだって失敗して来た」と父親が自分の過去を語り出す。
父親の過去の出来事と、息子の現在の病状との両方にハラハラしたり、ホッとしたりと緩急を織り交ぜて、長尺なのに飽きがこない脚本が見事。
笑いと感動がてんこ盛りの良作である。

90年代、インドでもトップクラスのボンベイ工科大学に入学したアニだったが、学生寮は負け犬ばかりが集まるといわれるボロボロの4号寮(H4)に振り分けられる。

アニは寮生活を送る中で個性的な寮生たちに出会う。
セックスにしか興味のないセクサ、悪態ばかりつくアシッド、マザコンのマミー、大酒飲みのへべれけ…と、誰を取っても濃いキャラクターばかり。
しかし、その誰もが学生生活を楽しもうとする気のいい連中。
アニは彼らと親友になり、学力差別やイジメなどないH4での生活に魅了される。
同時に学生たちのマドンナ的存在だったマヤと付き合うようになる。

大学での失敗エピソードを話すと、息子ラーカブの意識が戻り、「それ本当なの?」と先を知りたい息子が話をせがんでくる。
知りたいという欲求も生きる意欲の一つなので、父親のアニも大喜び。
ラーカブの母でアニの元妻のマヤも、もっと話をしてあげてと懇願。
アニは自分の話が事実であることを証明するため、長い間会っていない親友たちに証言して欲しいと連絡を取る…という展開に。

1人のエピソードをアニが話し終わると、「そいつぁ、ホントの事だぜ…」と本人が病院に駆けつける。
文章にするとカッコいいが、回想シーンの若々しさと違って、みんな禿げたり太ったりと寄る年並みを感じさせる姿なのが笑えてしまう。

全員が病院に揃ったところで話は彼らの最大の失敗、校内最大の行事であるグランドチャンピオンシップ(GC)なる寮対抗のスポーツ大会の話題に。

アニはかつて他の寮の誘いを断り、H4の兄貴分になっていた最上級生デレクにリーダーを頼み、GCで優勝して「負け犬」の汚名を返上しようと奮起する。

アニとデレクは寮生の中から出場選手を選抜するが、H4の寮生たちはスポーツが苦手な者ばかり。
アニは寮生たちのやる気を起こさせるため、それぞれが大事にしているものを断つように提案し、彼自身もマヤとの関りを断ってしまう。
アニはGC優勝を目指して作戦を立てるが、どれも姑息なものばかり。

応援団を組織して、アシッドが考えた野次で相手チームにプレッシャーをかける。
マヤに協力して貰い、深夜に色仕掛けの電話を掛けて相手を寝不足にする。
オーバーに痛がる演技でファウルを演出して強豪選手を退場させる…と、反則スレスレな作戦の数々は、意外にも功を奏して勝利して行く馬鹿馬鹿しさが笑える。
良く言えば、知恵とやる気と団結力で様々な競技を勝ち抜いていくのだが、「正々堂々やれよ」とお怒りの人もいるだろう。

また、出場チームのいない競技にエントリーして不戦勝を狙うなど、着々とポイントを稼ぎ、高飛車な宿敵3号寮(H3)との差を縮めていくアニ達。

一方、現在ではラーガブの容態が少しずつ悪化しており、手術が必要と医師が判断。
アニは学生時代の物語を最後まで息子に聞かせたいと懇願し、手術を10分だけ待ってもらうことに。
ラーガフの目にも生きる気力が出てくる。

GC最後には実力で勝たなくてはならない競技が残る。
リレーとチェスを制し、最後はバスケットボールで金星をあげることができれば、H4は史上初の優勝。
相手は憎きH3で劣勢からアニが3ポイントシュートを決めれば逆転勝利が決まる…はずが、痛恨の敗退。

しかし、H3に拍手喝采が送られる中、「H4にも拍手を!」と、H3は好敵手となったH4の健闘を称える。
敗北はしたものの、仲間との達成感を得ることができたH4の面々は今も友情が続いている。
これからの人生に希望を抱いたラーガフは手術を克服し、翌年無事に大学に進学。
アニとマヤの夫婦仲も元通りになり、ハッピーエンドである。

青年期と中年期の2つの時代をまたいではいるものの王道の青春学園コメディ。
邦題のもとになっているヒット作「きっと、うまくいく」と同様に、インドの加熱する学歴競争が発端だが、勉強なんてそっちのけで描かれるのは、スポーツ大会での友情・努力・勝利という少年ジャンプのような青春と寮生活の馬鹿騒ぎ。
勉強なんかより大事なのは、人と人の繋がりなんだというメッセージがある。

実際、まだ社会に出ていない学生の物語がメインなので「負け犬」という表現はまだ早いと思わざる得ないのだが、逆を言えば受験に落ちたからと言って「人生、負けた」と悲観的になるなよ、人生これからだぜというメッセージも感じられて、心温まる作品に仕上がっている。

少し引いてみると、自殺するほど受験失敗を苦にしている子どもに大学がいかに素晴らしいかを語るってどうなの?ってツッコミたくなるのだけれども、「人生これからが楽しいんだぜ」と思わせることに成功したので結果オーライ。

子どもが見れば、失敗しても長い人生やり直しができると前向きになり、若者が見れば人との繋がりを大切に努力を続けようと、これまた前向きになれる。
大人が見れば、子どもに教えられるのは自身の経験だと悟り、ちゃんと子どもと向かいあうべきだと思うだろう。
また、昔の友達は今何してるんだろうと連絡したくなること受け合い。

インド映画に良くある「突然ミュージカル」はなく、曲に合わせたPVのような青春の演出なので、突然踊るのが不自然でイヤという人も気にならないはず。

学生時代の馬鹿騒ぎの笑いに、スポーツもののハラハラがあり、親子愛の復活という感動もあり、となかなかに贅沢。
「きっと、うまくいく」が好きな方にはオススメしたい。
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