テリーマザーファッカー虎

花と雨のテリーマザーファッカー虎のレビュー・感想・評価

花と雨(2019年製作の映画)
3.1
2000年代の日本のヒップホップシーンに大きな影響を与えたラッパーSEEDAの名盤『花と雨』を題材にした作品。

個人的にSEEDAや日本のヒップホップにもかなり思い入れがあるので、フラットな目線で見ることができないのですが、感想としては思っていた映画、そしていちヘッズとして見たかったSEEDAの映画では無かったなというのが正直なところ。

元々『花と雨』というアルバム自体SEEDA自身のリアルな半生を綴ったアルバムということもあり、本作も半自伝的な内容ではあったのですが、その塩梅がファンが見たいものでは無かったような気がしました。
いわゆるミュージシャン自伝物だと「あの名盤の制作秘話」や「あのライブの舞台裏」などがかなりの見所になる部分だと個人的に思っているのですが、本作はその肝心な場面をほぼ全て端折った作りになっていてかなり残念でした。高校時代から始まる物語は街中のサイファーに出会っていきなり時が経ち次のカットてまはデビューしているというスピード感。
SEEDAのファンとしてはその間のSHIDA DA SHADI名義のアルバムの話やTAMUとのバミューダクルーの話、本編でも軽くしか触れられない名盤『GREEN』の制作秘話など見たい部分があり過ぎる。ただあくまで半自伝的な作品ということもありそういったファンサービスはほぼ皆無。

I-DeAやBES、BACHLOGICなど現在でも活躍する実在のラッパーやプロデューサーを元にしたキャラクターも出てきはするものの、やはり存命中のアーティストは深く描けないのか全体的にふわふわした感じになっているのも残念。にしても高岡蒼佑演じるBACHLOGICは感じ悪かった気がしますけど(笑)

そういったヘッズへの目配せを廃した結果、映画として素晴らしくなったのかというと実はそういうことでも無く、肝心なラップをする場面がほぼなくて、「本当にラッパーなのか?」と疑ってしまうほど。仙人掌をわざわざ監修にまで呼んだ意味があるのか結構疑問でした。
そして本作の大きな鍵となるSEEDAのお姉さんの話に関しても、実はそんなに深掘りされていなく、一番大事な話にも関わらずいまいち乗っかれ無かった。

劇伴は『花と雨』の楽曲を使っているので、当然素晴らしいのですが、演出はあまりよろしく無く、特にエンディングの入り方は原曲を知ってれば知ってるほど「えっ!?勿体無い!!」なんて言葉が出てしまうほど。

こういう作りなのであれば、直球勝負でSEEDAの自伝映画として制作してSCARSメンバーなどもしっかり描き、劇中に当時のCCGの楽曲が流れまくる作品だった方が初の日本のヒップホップ史映画になりえたのでは?と思ったり。

ただ主演の笠松将の佇まいは良かったし、北野ブルーを彷彿とさせる映像のルック自体は非常に良かったと思います。