ししまる

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男のししまるのレビュー・感想・評価

4.2
1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く弁護士ロブ・ビロットは、ウェストバージニア州の農場が大手化学メーカー・デュポン社の工場からの廃棄物で汚染され、190頭の牛が病死した問題を調査。デュポン社が発ガン性のある有害物質の危険性を40年間隠蔽し、大気中や土壌に垂れ流し続けた疑いが浮上する。
地味で硬派ながら見応えのある社会派ドラマ。そして、とてつもなく恐ろしい実話。20年に及ぶ話がサクサクと展開していくが、事態が一向に解決しない現実を突きつけられる。企業の姿勢に辟易とさせられる半面、社会も多くの働き口や、便利な製品の恩恵を享受していることを考えると単純な図式では語りきれない。そんな側面もきっちり描いている。
苦悩する弁護士役のマーク・ラファロの演技はもちろん、脇を固めるアン・ハサウェイ、ティム・ロビンスらも素晴らしい。
本作で取り上げられた化学物質PFOAを含むPFAS(有機フッ素化合物の総称)が最近、日本各地で国の暫定目標を超える濃度で検出されている。便利さから過去に使われたものが土壌に残留したり地下水を汚染したりしているという。高濃度で検出された場合の具体的な除去技術をまとめた指針を環境省が今年夏ごろに策定するらしいが、日本政府の対応は遅れており、その意味でも本作はまさにタイムリー。
さて、劇中で主人公が夜中に台所でフライパンを漁るシーンがあるが、本作を見た人も「うちのフライパン大丈夫か?」ってなるのは確実。調べたら、テフロン加工でも空焚きせず適切に使っている限りは、今のところ心配しなくていいらしい。ただ本作を見ると必ずしも安心はできない気分になる。 化学物質とか添加物に溢れた現代、いちいち気にしてたら生活できないけど、普通の人は安全性に関する正確な情報を確かめる術がないんだから、それこそお役所に頑張ってほしい。
✅メモ
2016年、ニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載されたナサニエル・リッチによる記事「デュポンにとって最悪の悪夢になった弁護士」を原作としている。
ロブ・ビロット本人による著書が2019年に出版され、23年4月に日本語訳「毒の水:PFAS汚染に立ち向かったある弁護士の20年」が映画原作本として発売された。
劇中で問題となる化学物質PFOAはPFASの一つ。フライパンのテフロン加工や撥水剤などの日用品、半導体、自動車部品など世界中で幅広く使用され、自然界では非常に分解されにくいため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。
テフロン加工などに使われるフッ素樹脂(PTFE)は化学的に不活性の高分子で、生体内に取り込まれないため毒性はないとされ、発がん性や生殖毒性は指摘されていない。劇中で問題とされたのはPTFEを製造する際に反応助剤などとしてPFOAが使用されていたこと。
ただフッ素樹脂も260℃を超えると分解が始まり、有害ガスが発生するためフライパンの空焼き、空焚きは避けるよう求められている。
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