蛸

フランケンシュタインの復活の蛸のレビュー・感想・評価

4.5
言わずと知れた、ボリス・カーロフが(最早アイコン的な)「怪物」役を演じるフランケンシュタイントリロジーの最終作。
前作、前々作と比べると知名度が低い印象の本作ですが、殊ヴィジュアルという側面に関して言うと三部作の中で最も傑出した作品だと言えます。
極端に歪めてデフォルメされた要素で構成されたフランケンシュタイン城の外観や内観は、誇張された「人工物=つくりもの」としての趣が強く、観客はそれに親しみやすさをすら感じるでしょう。

もちろんこの映画は、観客の不安を煽る要素にも事欠きません。
画面のフレームとして斜めに断ち切られた天井が映画に不安定さをもたらし、素晴らしい照明がもたらす効果で生じるありとあらゆる影が不穏な雰囲気を醸し出します(影を使った画作りの豊かさが突出しています)。
特徴的な白い内壁には、ありとあらゆる影が投影されますが、それはさながら、映画内において影に託された登場人物の感情が投影されるもう一つのスクリーンのようですらあります。

上記のような素晴らしいヴィジュアルの中でも矮小化されることのない登場人物たちのキャラクターの濃さもこの映画の大きな魅力です。
マッドサイエンティストとしての素質を徐々に明らかにしていく主人公、かつて「怪物」によって右腕を奪われた警部、自身を死刑に追い込んだ8人の陪審員に執着する狂人イゴール…。
「怪物」はもはや舞台装置としての役割しか果たしていませんが、その分意外な展開のある飽きのこない脚本が楽しめます。


この映画における、特徴的な演出や画面構成は、ドイツ表現主義からの(特に『ガリガリ博士』からの)強い影響を感じさせます(面白いことに、今回の「怪物」のキャラクターは原作小説からも、そして前作、前々作からも遠く離れたものとなっています。狂人に操られる殺人マシーンとしての彼の存在もやはり『ガリガリ博士』からの影響を彷彿とさせるものです)。

その意味で、この映画は、原作から巣離れしてホラー映画の祖としての『ガリガリ博士』に先祖返りしたかのような極めて奇妙な作品だと言えるでしょう。

つまり、この映画はドイツ表現主義がアメリカ映画に接木されたことで生まれた大いなる成果の一つであり、プロダクションデザインの素晴らしさという点で右に出るもののない大傑作であると言うことです。
蛸