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羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来のmaiのレビュー・感想・評価

4.4
とにかく「アニメ」へのリスペクトが凄まじかった。アニメだからこそ成せるスピード感のあるアクション、アニメだからこそ許されるキャラクターの独創性、アニメだからこそ描ける映像の美しさ、アニメだからこそ醸し出せるキャラクターの愛らしさ…どこをとっても、アニメの良いところを総取りしたかのような完成度の高さで、アニメってやっぱり良いなと思えた。

このストーリーの悩ましいところって、多分「正義VS正義」の構図を取っていて、なおかつそれが直接現代社会につながるというところだと思う。
ムゲンが「共生のみが生き残る道」と語り、妖精と人間の共存世界を目指すのは真っ当だと言えるし、一方でフーシーが「人間の身勝手な行動が妖精の住処を奪った、共存なんて不可能」と語るのも理解できてしまう。
それは正しく現代社会の「自然と人間」の関係の折り合いの難しさを語るものだし、あらゆる媒体を通してあらゆる設定のもとで語られてきた話ではあるけれど、この映画の中では更に「アニメ」として分かりやすく語られていると感じた。
そして何よりも「ムゲンもフーシーも間違ってはいない」という複雑さをちゃんと描いているのもいいと思った。
最終的に、シャオヘイはムゲンの描く「共存の世界」を選んだけれど、作中では「行き過ぎた理念」としてフーシーを描きつつも、その正義感は真っ当なものであり芽生えて当然のものとして描かれる。だからこそ、最後までフーシーを完全なる悪としては描かない。その柔軟性がいいなと思った。
立場や視点が変われば、思いや考えが変わるのは当たり前だし、自分の思う理想と他者の思う理想が異なるのも当然。その「個々人としての多様性」にも重きを置いてくれてるからこそ、ここまで多くの人の心を掴んで離さないのだと思った。ムゲンも「シャオヘイの基準で未来を選んだら良い」とあくまでも、シャオヘイの価値観を重んじて、信じてくれてる。

自然と人間の関係性だけにとどまらず、個々人の価値観に基づく判断を尊重する柔軟性、そして自分と異なる他者を悪と決めつけない寛容さ、さらに仲間を信じる真っ直ぐさ…そういう「キャラクターとしての魅力」が嫌味なく描かれるからこそ、寂しさが胸を掠めるラストなのにさらりと爽やかさも感じる構成になってるのだと感じた。
加えて言えば、相手にされたからと言って、それをお返ししてやろうという人の憎むべき性質を跳ね除けて「妖精にもいろいろいるように、人間もいろいろいて、自分達を自然から追いやった人間と今目の前にいる人間は別」と種族を超えて、他人を他人として一貫して見つめることのできるシャオヘイの純粋さが良かった。

何においてもまず、シャオヘイの真っ直ぐさや子供っぽさ、そして少年らしい憎らしさ…全てが可愛い!ムゲンの真っ直ぐさもいいし…ムゲンやフーシーの仲間達の親しみやすさも素敵だった。
作画も、余計な線は排除したような太めの簡略的な線なのに、それでいて雑さは感じない新しいタッチだと思った。新しいというか、「綺麗さ」や「精巧さ」を求め過ぎてない…という感じ。
アクションの見せ方もうますぎるし…悪いところがひとつも見当たらない。おまけに、声優陣は本職の方を集めてる(声優が本職ではない役者の方がやる声当てというのも、時には新鮮みがあって良いし、決して悪いものだとは思わないけれど、完成度の点で言えばかなり異なるのは事実)ので、この作品が本国の製作陣同様に、日本の配給においても「アニメの魅力をしっかりと伝えよう」という思いのもとで作られたのかなと想像できた。

確実に今年のベストムービーのひとつになった。
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