ジンボウサトシ

わたしの叔父さんのジンボウサトシのレビュー・感想・評価

わたしの叔父さん(2019年製作の映画)
4.0
ある愛情を美しく映しつづける映画的映画

[STORY]
デンマークの農村。美しい酪農家のクリス(イェデ・スナゴー)は、体の自由が利かない叔父(役名も「叔父」)と同居している。家畜の世話をしながらルーティーンの生活を送るこの奇妙な二人は、なぜ一緒に暮らしているのか?獣医の道に進まなかったクリスに訪れる新しい経験や出会い。徐々に大きくなっていく葛藤に対し、彼女は最後に一体どんな決断を下すのか。


映画という芸術は、この世界のどこかの、ある日常の、一部の時間を切り取り、その変化と成長、あるいは終幕を描くものであるという。「わたしの叔父さん」は名作「パターソン」(2016)の日常を特化強調した作品のように思う。何にも起きなくても美しく素晴らしい作品は作れる、ということを証明してくれた。


ファーストカットから、この映画はすごい。
とにかく得体の知れない美しい映像が続く。驚異的な画持ちスタミナを保ったままゆったりと進み……と、油断した所でスパッと終わる105分。起伏も説明描写もほとんどない。美しいカットとバランスをとりながら観る側に行間を読み込ませてくれる独特な映画体験。観賞後は奇妙な痛快さすら残る、東京国際映画祭グランプリも納得の作品だった。

衝撃的なのは、最初のセリフが発せられるのが、始まってから約9分後!それはつまり、この日常をよりリアルに伝えるべくセリフを絞り、一つ一つの重要度を高めていたのだと、映画を観終えるとわかる。ラストと対になる最初のセリフは誰のなんという一言だったか。観にいかれる方には覚えておくとよいでしょう。

細かな所作に、クリスと叔父の歴史を読み取ることができるのも素晴らしい。序盤、朝起きてから仕事を終えるまで、喋る必要がないくらい二人の息はピッタリだ。映画のリアリティが決定する要素の一つ「食事描写」が丁寧に繰り返し出てくる点もすばらしい。

その後、仔牛を取りあげたり、教会での出会いを経て、そのルーティーンがズレていくことで、観てる側の不安をかきたてていく。トレーラーで狭い厩舎の間をゆっくり進むシーンは、彼女の閉塞感を表す見事な演出だ。
そんな低めの温度が浸透したところで、明確に笑えるポイントがポンと訪れたりもする。日常を変えたいクリスはどんな決断し、どんな成長を遂げるのかぜひ観にいってほしい。

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序盤、近くに座っていた若いカップルは席を立ち、そのまま戻ってこなかった。その気持ちもわかる。好みがはっきりと別れるのも、この映画の魅力だろう。パンフレットが欲しいのでぜひ日本でも劇場公開してほしい。

●パンフレット 未購入