「ウォッチメン アルティメット・カット版(吹替版)」
2009年公開の「ウォッチメン」に未公開シーン及びアニメパート「黒の船〜海賊船ブラック・フレイターの物語」を追加した215分バージョン。アマプラレンタルでセールをやっていたので鑑賞してみたが、通常版をみた時とは全く異なる感想を抱いた。
4年前に鑑賞した通常版の感想には「アクションと音楽のマッチが良かったけど、全体的には普通だった」「せっかくバイオレンスなアメコミなんだからもっとアクションがみたかった」とあったが、この当時の自分は何もわかっていないなと。
まだ世間にアメコミブームが来る前の作品でここまで完成されたアメコミ映画があっただろうか。エンタメに留まることなく、人間の傲慢さや残虐性、そして正義とは何かというメッセージを孕んだ哲学的な作品で、もはやヒーロー映画という枠組みを超えた新たなジャンルの作品なのかもしれない。
HBO版「ウォッチメン」でもタルサの大虐殺や黒人、LGBTQ差別など実際の社会問題に触れていたが、本作も実際の歴史に物語を落とし込み方が非常に上手い。冷戦時代のヒーローが存在していたらというテーマをもとに、本当の善と悪とは何かを考えさせられる。これってどんなヒーロー映画にも存在する命題かもしれないけど、それをなかなか表現するのは難しいし、キャラが成り立っていないと成し得ない技だと思う。
本作のヒーローたちは、そのバックグラウンドを提示されないまま登場し、政策で自警活動を禁止されている、言わば”廃れてしまったヒーロー”であるにも関わらず、誰1人として魅力に欠けることがない。みんな大好きロールシャッハはその代表格だろう。
3時間半は言わずもがな長いが、絶対に見るべきアメコミ映画を挙げろと言われたら間違いなく本作を挙げたいほどに素晴らしい作品だった。まだ観てない人もだが、1回目を見て満足しなかった僕のような人にこそ観てほしいバージョンだった。