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罪と罰のodyssのレビュー・感想・評価

罪と罰(1983年製作の映画)
3.0
【ドストエフスキー原作というよりは】

ドストエフスキーの有名な『罪と罰』をカウリスマキ流に料理して作った映画。といっても、タイトルを知らないと、ドストエフスキー原作とはちょっと気づかない。

原作は、主人公が独特の哲学に基づいて人殺しをするところから始まっている。ところが、この映画では主人公には相手を殺す動機がちゃんとあるのだ。つまり、『罪と罰』という作品の本質的な設定が変更されているわけであり、そこが変わらなければいくら人物の名や関係を変えても納得するけれど、スタートからして違っているのでは『罪と罰』にならないんじゃないか。いや、思うに、カウリスマキはタイトルだけ借りてきて、全然別の作品を作り上げたのだ、と考えた方がいいだろう。

まあ、それでも強いてドストエフスキー原作と受け取るなら、この映画のヒロインはソーニャとドゥーニャを合わせたような女性だし、彼女に迫る男がスビドリガイロフ、刑事はむろんポルフィーリーてなことになるのではあろう。この中で一番分からないのはヒロインだ。犯人=主人公を現場で見ているのに、警察で面通しをされると否認する。このわけの分からなさが、この映画の一番の見どころかもしれない。

でもそれは決してドストエフスキー的ではない。(ドストエフスキーの作品の女性たちは概して分かりやすい。)あくまでカウリスマキ的なのである。それは、フィンランドのどこか寒々とした(北国故の寒さということでは必ずしもない)都市の風景と、どこかでつながっているようだ。
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