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リチャード・ジュエルのmのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
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近年のイーストウッド映画では一番良いけれど、重い罪を犯している映画でもある。この映画は自らが糾弾している罪を自らもまた犯している。

まず近年のイーストウッド作品通り淡々とするすると映画は肩の力を抜いて進んでいくのだけど、時折力の入ったシーンがあってそこで強く心動かされる。
今まで常軌を逸した役ばかりだった怪優ポール・ウォルター・ハウザーがその尋常ではない危うさを活かしつつも、初めてごく普通の人間としてのエモーショナルな演技を見せて素晴らしかった。当初はジョナ・ヒルが演じると言われていた役だけどポールで正解だったと思う。
彼を支えるやさぐれ弁護士のサム・ロックウェルもさり気なく圧倒的に巧い。


こういう感じで良い部分が多々あるのだけど、一方でこの映画の作り手は自らが糾弾しているメディアと同じ愚行を犯している。
それは女性記者の人物造形で、『特ダネの為にFBIと寝て情報を得る野心的で鼻持ちならない記者』といういかにもテンプレ的な人物造形は、実在の人物をモデルにしているにも関わらず事実を無視して(まあ実際こうだったのかもと言われると反論しようもないが)作劇の都合でひたすら分かりやすく露悪的に仕立て上げられている。タチが悪いのはこのモデルにされた女性記者は既に亡くなっているので反論できないという事。その代わりに新聞社が抗議の声明を発表したが映画会社は軽くあしらっている。
https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a30199685/clint-eastwood-richard-jewel-191212/

登場した瞬間に『こいつは性格悪くて自信過剰なムカつくビッチだ』と観客に見せつける言動と芝居とメイク、ひたすらメディアの悪い面を象徴させる為に強調されたその人間性の酷さと『セックスで情報を得る』といういかにも古いオッサンやジジイが考えそうな女性観(日本ではまだメジャーですが)が恐ろしい程に浅はかで目に余る。

映画らしくこの映画の中で女性記者には改心の機会が与えられるが、その取ってつけた感もまた監督・脚本・プロデューサー陣の浅はかさを露呈している(追記:この件に関するイーストウッドのコメントを読んで更に失望した)。

結局この映画は、リチャードの汚名を挽回する代わりに違う故人に汚名を着せるという最悪の罪を犯している。『いやこれはフィクションだからwww』という言い分は分かるっちゃ分かるが『実在の人物と事件を描いている』という前提と『巨匠イーストウッド作品』という看板によって多くの観客はこの女性記者にこうした悪いイメージを根拠も無く抱くだろう。そして故人には名誉挽回の機会はもうやってこない。


この件に対して記者役のオリヴィア・ワイルドのコメントも出ている。

https://www.elle.com/jp/culture/celebgossip/a30233739/olivia-wilde-richard-jewell-191216/

せっかく監督作「Booksmart」の大好評で次のグレタ・ガーウィグになれそうなオリヴィアが、ここに来てこんな酷い芝居をさせられている事は気の毒でしかない。
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