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リチャード・ジュエルのトレバーのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.5
サム・ロックウェルが今、来てます。
来まくりやがっています。
絶好調、と言っても過言では無さ過ぎる勢いです。
「ジョジョ・ラビット」に完全にやられました。
いかにやられたかはレビューを参照して頂くとして、
本作に出ているというのはアタマにあったのですが
冒頭から出て来る、イラつきを隠せずクライアントに
電話越しに怒鳴るイケオジが、すぐサムと
分からなかったのです。
流石カメレオン俳優!
カッコいいカメレオン俳優と言えばボク的
昔からイチ押しなのはゲイリー・オールドマン
なのですが、2人はルックスも似てる!
フォロワーの方で、2人プラスこれまたボクの
昨年度最優秀俳優だったジム・メンデルソーンも併せて
「ちょっぴりナイーブな狼顔系」とおっしゃってて、
それな!
と膝を強く打ち過ぎましたし、ボクの推し俳優は
似てるんだなあと思いました。
カメレオンぶりや(何を演じても中間管理職なジム除く)
B級ものから文芸ものまで意外と作品を選ばない
何も考えてないのかむしろプロフェッショナルなのか
よく分からない所まで、力強く推せます!

マクラはこのへんにしまして、本作なのですが
御大、年1でサラリと撮るのがホントすごい!

ここしばらく、実話に基づいた作品を撮り続けていますが
共通して言えるのは、実話を忠実に伝えたい作品では無いという事で。
各作品毎に、その実話を用いて何かを伝えようとしているんですね。

本作は、20年前に起こった、まだSNS等が無かった時代なのにメディアリンチで吊し上げられ
(しかも無実で!)その行為自体に誰も責任は負わない
という恐ろしさを現代と繋げたような作品だったと思いました。

リチャードは、迂闊な所が沢山ある男ですが
純粋で一生懸命、頑張るさじ加減がおかしくて
不審がられかねなかったりしますが
(冒頭の、デスクの引き出しを勝手に開ける所からそれは始まっています)
反面それは彼の熱心さだったり気遣いだったりする事を
我らがサム演じるワトソン弁護士は見抜き、2人が心を通わせる
この一連の流れの見事さったらないです!
2人の出会いからキャラクターまでをほんの数分で理解させる。
ことほど左様に、上手過ぎて自然過ぎて
淡々と見えてしまうキライはあるかもしれません、
御大の近作は。そこがいいんじゃない!
もうねー、心地良くてウットリですよ!

純粋過ぎる故に、迂闊すぎる故に、一夜にして
爆弾犯から民間人を守ったヒーローから、
マスコミやFBIから犯人に仕立て上げられるリチャード。
冒頭から、FBIの捜査中にいたるまでリチャードの迂闊さは
人によってはイラッとするだろうと思いますが
まさにそれが御大の狙いなのでは?と思いました。

今、疑われても仕方ないとあんたら思ったろ?
それが彼を追い込んだ原因なんじゃないのか?と。

リチャードは、ワトソン弁護士にFBIに舐められてるんだぞ
悔しくないのか?と聞かれ、そりゃ悔しいよ!
と初めて訴えます。きっとリチャードは
それまでの人生も上手くやれなかったんだろうと思います。
でも、彼は正義の気持ちは捨てなかった。
人のためになる人間になりたかった。
信じてくれる母親を喜ばせたかった。
リチャードを演じたポール・ウォルター・ハウザー、
「アイ・トーニャ」で彼しか演じられないんじゃないかという
どうしようもない人物を最高に演じていましたが
本作においても御大から「彼を演じるために生まれてきたようだ」
と(この言い方もどうかと思いますがw)
言われたほどの素晴らしいものでした。
不器用、愚直なまでの正義感が空回り、
いちいち「あちゃー、ダメだよそんな事しちゃあ」
と心配させる、見事なまでの「心配エンターテイメント」を
盛り上げてくれましたし、クライマックスは
本当に感動させられました。

母親役のキャシー・ベイツも素晴らしい演技でしたねー。
息子が評価された事を心から喜び、それ故に
状況が一変し息子が苦しむ事に胸を痛めます。

途中で、リチャードは胸の辺りを押さえて
苦しがる様子を見せます。
実話ですから書きますが、彼は無実が証明出来
念願の法を守る勤務をスタートして10年経たずに亡くなります。心臓疾患です。

マスコミが、世間が、FBIが彼を追い込んだ事が
原因では無いと誰が言えるでしょう。

女性新聞記者が、FBIと関係を持ち情報を手に入れ
スクープしたという展開にした事が、
(実際はそのFBIとは交際していて、それでリークしてもらったようです)
その女性記者の遺族(リチャードに訴えられ不起訴になった後、麻薬中毒で死去)や
新聞社から批判され女性権利団体から作品のボイコット
という騒ぎにまで発展した本作なのですが、
御大に言わせりゃあきっと、似たようなもんだろ
連中がやらかした事はそれくらい罪深いんだから
いんだよこまけぇことは!って、ガハハって
笑ってる気がするんですよ。
「運び屋」の老獪かつ豪快なイメージですけどねw
実際、御大のここ数作は「実話に基づいた」作品という事で、
細かいディテールの適当さや、脚色はかなり見うけられます。

やはり、ここ数作の御大の作風が肌に合うか
合わないかで評価は変わるかな、という気はしますね。
ボクは大好きでした!
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