TaiRa

リチャード・ジュエルのTaiRaのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
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主題は如何にもイーストウッド的で、彼の考え方とか言いたいことがもろに出ている作品。ただ、この話ってあんま映画化に向いてないんじゃないかな。

『牛泥棒』に影響受けてキャリア初期から冤罪と私刑の話ばっかり扱って来たイーストウッドが、この話を映画にしたかったのは凄く分かりやすい。あと英雄についての話も何度もやっているしね。公権力やジャーナリズムへの不信感も剥き出しで出てる。実際の事件を忠実に描写したらあそこまで勧善懲悪にはならないでしょう。特に問題視もされてる女性記者の描写なんかは。分かりやすいジャンル映画のように撮ったのは、イーストウッドとしては当然のことだろうけど、もちろん功罪ある。ただ、そのジャンル映画然とした部分が何より面白いのも事実っていう。女性記者がリチャード・ジュエルを追い詰める記事を出す時の、部屋に差し込むブラインド越しの光と影が星条旗に見えるのなんてまさにフィルム・ノワール的。FBI捜査官から話を聞き出すバーのライティングも赤と青で星条旗カラー。これ映画的で面白い場面は悪役側の描写の時ばっかり。リチャード・ジュエル側って実は描くことがないというか、彼がイノセントなのは最初から分かってるし、彼の無実を証明するのも案外簡単だったりする。そういう意味で冤罪モノとしては物足りない部分がある。弁護士との関係性も冒頭で描かれる以上の物はあまりないし。リチャード・ジュエルの困っちゃうイノセントさが笑いを誘う場面は多いけど、それだけとも言える。本来、この事件で最もドラマチックな運命を辿るのはあの女性記者なんだけどね。イーストウッド、そろそろ実話モノやめたら?
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