Chico

聖なる犯罪者のChicoのレビュー・感想・評価

聖なる犯罪者(2019年製作の映画)
4.0
二十歳の青年ダニエルは少年院で出会った神父の影響で敬虔なキリスト教徒となり、神父になる夢を抱く。しかし法の定めにより前科者は聖職者になることができない。
仮釈放になったダニエルは就職のために施設から遠く離れた製材所へ赴くが、町の教会の鐘の音を聞き、導かれるように教会に向かう。
そこで出会った少女に冗談半分で「僕は司祭だ」と言ったことで新任の司祭と勘違いされる。そして数日間、司祭代理を担うことになる。
初めはダニエルの司祭らしからぬ風貌や言動に戸惑う村人達だったが次第に彼に信頼を寄せていく。

北欧の空気感が伝わる彩度の高い青っぽい画面。深い緑の森、それぞれの時間帯にみせる空の表情。泥臭さ、カビ臭さ、ほこりっぽさ、草木の香りなど湿度やにおいまでが伝わってきます。

ここまで書いて、ハートウォーミングに聞こえていたら誤解です。いわゆるピカレスクもの。深い闇と暗さのあるしかし高潔な映画です。

宗教に詳しくないのでそこら辺は語れませんが、一番印象的だった主人公のキャラクターについては思う所があります。

物語を動かす魅力的なキャラの構築について監督は、作品の意図を効果的に伝えるため、当初は真面目一辺倒だったキャラクターに、制作過程で徐々に、遊び=過激さを加えていったといいます。

そして最終的に画面に映し出された主人公ダニエルは、監督の意図を存分に具現化した強烈なキャラクターで、最初から最後までキレキレのその存在感に圧倒されました。
演じるのはポーランドの新星バルトシュ・ビィエレニア、彼のビジュアルが影響してるのは言うまでもないけど、その演技の妙に見入った。寡黙な役なのに彼の身体性が、複雑な心の機微、カリスマ的一面、潜む獣性をおおいに伝えてくれる。

ダニエルの敬虔で熱心なカトリックの司祭という側面、危うさや孤独、不安を抱える前科者の側面は、彼の人間性の光と影、理想と現実という対極にある二面性を現しているが、その相反する性質が違和感や胡散臭さなしに同時に存在することへの説得力がある。


汚れた者は神に触れることはできない、だけど一番近くで愛を享受することができる。
村人達を鏡として自らの罪をかえりみるダニエル。彼は果たして救われるんだろうか…。

MEMO
この映画の題材は実際におきた事件が基になっているけどそれは特定の事件ではなく、同種の事件の断片的な要素をつなげてつくられている。つまりカトリックの多いポーランドでは聖職者へのなりすまし事件は度々起こっていて、その背景には彼らの信仰の深さや聖職者を優遇する社会の風潮があるという。
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