あゆみ

森のムラブリのあゆみのレビュー・感想・評価

森のムラブリ(2019年製作の映画)
4.2
タイやラオスの山岳地帯に暮らすムラブリ族。400人程度の少数民族で、狩猟採集をしながら遊動生活を送る。「黄色い葉の精霊」と呼ばれる伝説的存在のリアルな生活を捉えた映像人類学的ドキュメンタリー。

奪い合えば足りないけど、分け合えば余る。
同じ時代を生きている不思議、人類の営みの原点に立ち返るような浮遊感。
文化人類学や言語学のフィールドワークを垣間見る貴重なひとときだった。

今も森の中で生きるムラブリは、電気ガス水道も家もない代わりに、労働も必要な食料を集めに行く1時間だけ。あとはずっとのんびり。
森から下りて貨幣経済に取り込まれ始めたムラブリは、日雇労働をする代わりに「村の人間の仕事を手伝うことで生活が良くなった」とも。
村に下りて酒を飲んだりスマホで音楽を聴いたりするのが好きな瘋癲の夫と、「森で生きてこそムラブリ。遊んでばかりの男はいらない。別れる」という子育て中の妻。
ムラブリにも色んな人がいる。人間の本質は何も変わらなくて面白い。

ムラブリ語は音が伸びやかで穏やか。見終わった後、無性にお米が食べたくなって牛丼屋へ向かう。

金子監督と、言語学者で出演者の伊藤雄馬さんの舞台挨拶付き。伊藤さんはムラブリの価値観が移ってきて、なぜ家を借りるんだろうと考えるようになり、車中泊や野宿も試したりしているそう。そしてふんどし!

パンフレットのムラブリ語辞典に、優しい世界が広がっていてほっこりした。
議論を重ねて理解を深めることも大切だけど、このくらい余白を残したコミュニケーションで成立できたら生きやすそうでいいなあ。
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▼何かあって気まずい時は…
なんてことないよ。
キ サック
*ほとんどのことがこの一言で不問になります。

▼相手に伝えたいことがある…
私は怒ってないんだよ、本当だよ
オォ キメーン パルゥ デー
*相手に意見するときは怒っていないことを必ず伝えます

▼何か意見を求められたら…
あなた次第
カラム ドゥ メェ
*人によって意見の相違があっても議論しません
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