盥

ツングースカ・バタフライ-サキとマリの物語の盥のレビュー・感想・評価

4.4
とても良かった。

野火明監督の作品は「シークレット・ワルツ」「アリが空を飛ぶ日」の二本しか見ていませんが、どちらも胸に刺さるものがあり、「ツングースカ・バタフライーサキとマリの物語」も見るのを楽しみにしてました。

本作は、ともに社会から外れた存在であるサキ(亜紗美)と少女マリ(丁田凛美)が心を通わせる人間ドラマとして始まり、後半はクライムアクションへと展開します。アクション女優として数々の出演作があるらしい亜紗美(本作が引退作だとか…)の殺陣は殺気溢れて見事で、アクション映画として見ても、十分満足な出来だと思います。

自分が野火明作品で特に心を掴まれるのは、監督独自の詩情のような部分です。残酷や孤独の中の美しさというか、詩というか……本作においては、たとえば切り落とした腕を生け花にするシーンなどに特徴的です。

しかし今回は子供がメインキャストということもあり、いつもより素朴でピュアな表現になっている気がします。乾いた映像の中にも温かみがある。全体的な雰囲気が優しくて、泥団子やオモチャの指輪には泣きそうにすらなりました。

最新作の「ラブ・ミー」は児童虐待を題材にしているようです。本作「ツングースカ~」における、社会から取り残された子どもの苦しみ・悲しみを見つめる視線が、さらに深化したものになっているのではないかと期待が高まります(しかし、どうすれば見られるのか……?)

それにしても野火監督作品は、強烈な個性があるのでもう少しカルト的な人気が出てもおかしくないと思うのですが……気が滅入る表現が多くて、なおかつ地味だからでしょうか?……フィルマークスの評価も、それほど高くないようです。実力のわりに不遇なタイプなのかもしれません。

非常に満足でした。
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