盥

辰巳の盥のレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
4.1
ヤクザの辰巳は死体を解体して廃棄するのが得意で、バラシ屋と呼ばれている。辰巳はかつて、薬物の過剰摂取で亡くした弟をバラした悲しい過去を持つ。そんな辰巳は、ある日、どこか弟を思い出させるような女の子・アオイと出会う。二人の出会いは、組を巻きこんだ血腥いトラブルへと発展していく……

……という、邦画にしては珍しいクライムサスペンスタッチの映画でした。一見陰惨にも見える設定だけど、案外エンタメに徹していて、製作者のこだわりを感じました(アメリカ映画っぽい)。主人公の辰巳とアオイも魅力的。個人的には大好物なタイプの作品で面白かったです!

……面白かったのですが……

正直、かなり評価の難しい作品だと思う。

というのは、事前にこれが自主映画であるという情報を目にしてしまったからで……だとすれば凄まじくクオリティの高い映画なのではないかと思います。大満足です。

一方、そういう前情報が無かったものとして……仮に、深夜なにげなくテレビをつけたら、この映画が放送していたとしたら?……やはり驚愕して、制作者や俳優の名前を検索しまくると思います。めっけもんです。

しかし、正直に言えば、これをゴジラやオッペンハイマーなどと同列に、対等なプロの作品として見た場合、そしてそれを今回のように封切りの映画館で見た場合……やはり少し、ほんの少しだけ、物足りないのではないでしょうか! いや、人によるけど。

何が足りないかと言えば、せっかくのバラシ屋設定を、死体入れ替えトリックなど脚本のギミックに使ってくれなかったこと、アクションがショボかったことなどなど、全体的にあと一捻り、一押しほしい部分がありました。

死体入れ替えなどの「プチどんでん返し」は、アメリカ映画ってそこは入れてくれるのがお約束じゃないの? という不満が……(目指してるのがそっちの方向じゃないのか?)

あと伊勢佐木町が出てきたので「あそこら辺が出てくるということは韓国系のバックボーンなのかな?」と思っていたら、クライマックスが中華料理屋なので「あれ?」となったりもしました。結局アイツらが、どんな素性のどんな組なのか、ボンヤリしている気がして……そこも惜しかった。

そういう「人物の背景を衣装や美術で表現する」感じの表現って実際めちゃめちゃ金かかるだろうし、自主映画で予算が回らないのもわかります。でも俺はこれが自主映画という先入観を「あ、ガチの作品だ」と感じた序盤に頭から投げ捨てて、ガチプロの作品として正面から見たので、そこの不満も大きくなるわけです……

作風も「自主映画(または低予算)なので許して😋」みたいな逃げを一切許さない、ストロングスタイルなので、もう少しずるい作り方をしてもいいのでは?……と、見ていて心配になるくらい。「カメラを止めるな!」みたいに、低予算を逆手に取る戦略的で器用な感じはまるで無いんですよね。でも、個人的にはそこがこの映画の美点でもあると思いますが……

いや、ジョニー・トーばりの男同士のドラマ+ハリウッド映画みたいなスタイル自体は大好きで、実際かなり楽しんだのですが、脚本の詰めが甘いというか……低予算映画ってそこが何より重要だったりするじゃないですか。

なので、かなり楽しんだにも関わらず、不満もかなりある、という感想になってしまいました。いや、面白いことは面白いですよ。本当に。
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