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セノーテのすのレビュー・感想・評価

セノーテ(2019年製作の映画)
3.7
メキシコの各地にあるセノーテと呼ばれる泉。地元の人々にとっては貴重な水源であると同時に神聖なものとして畏れられている。古代マヤ文明では生贄が捧げられていたという。

水中の映像から始まり、生贄にされた人々の精霊と思われる女の子の声が語っている。「生まれた場所に帰りたい」など哀しげな言葉。地上の映像はフィルムカメラで撮られていて、遠い記憶のような、夢の中のような印象。
前半の段階では、太古の昔のこととはいえ人が犠牲になった話を、それらしく、アートらしく消費しているような感じがして嫌な気がした。あと、撮影者の呼吸音にあわせてしか呼吸できない感じになって酸欠になりそうだった。

中盤からは、地元の人のインタビューの音声が入ってきて、どのようにセノーテが畏れられているのかが分かる。セノーテから戻らなかった人の話。水中には生き物の骨も沈んでいる。セノーテに宿る神は、古臭いものではなく、今でも一部の人にとっては真実。子供たちがセノーテで泳いでいる場面があったので、実際はかなり身近な存在なのでは、とも思ったけど。

最終的には、序盤に感じた嫌な感じはしなくなってきて「何を信じるか、何が正しいかなんて、あくまでも今ここにいる視点からしか測れないんだなあ」って大らかな気分になってきた。
今当たり前に思ってることだって、何百年後には「そんなこと信じてたの?」ってなってるかもしれないし。

そしてその気分に沿うような言葉。
「私たちはどこから生まれて、どのように生き、どう死ぬのか。誰が答えられようか。それは私たちしかいない。」

帰りには穏やかな気持ちだった。 
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