TaiRa

すばらしき世界のTaiRaのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
-
役所広司が良いのは当然として、太賀や六角精児がとても良い。まぁ、役者の頑張りが見え過ぎなきらいはあるが。

役所広司と佐木隆三を通して西川美和が今村昌平に接近してるのかな、と思ったがやはりテイストは違う。良い意味で軽さのある喜劇で、ユーモアに包まれているからこそ三上という男の得体の知れなさが際立つ。含意あるタイトルから浮かぶ作品の命題、結末へ向けての展開に多少の説明っぽさも正直感じた。社会の厳しさと人間の優しさを同等に扱うのは真摯だし、一方に偏らないのも正しい。優しさに寄ってる気もするし、そもそも単純化してる気もしたが。出所前の検診から始まる映画であり、ある種のタイムリミットが提示されていたのが観賞後には分かる。三上がその愚直さによって社会に押し潰される度、彼の身体は壊れて行く。登場人物たちにとって三上は象徴である。そういう作りだからか、ラストの決まり過ぎた役者たちの立ち姿は少しシラけた。何だか演劇の終わり方のようだった。好きな部分としては、三上がチンピラを成敗した後の屈託のない笑顔。口周り血まみれなのが可笑しい。六角精児は善意の人を説得力持って演っていた。三上の就職が決まったという報告に「凄いじゃない!良かったねぇ!」と素直に喜んでくれる姿が妙に感動的。こういう人が一人でも近くにいれば人生は何とかなるかも知れないと思わせてくれる。太賀は浅薄さも含め上手く表現していたし、改めて良い役者だと思った。三上の背中を流しながら彼が語る言葉は、あの役が佐木隆三や西川美和の投影と思うと染みる。西川美和はどっかで人間を信じてる。ひいては世界を信じてる。甘いと言う人もいると思うが。でも確かに空は広い。
TaiRa

TaiRa