櫻イミト

商船テナシチーの櫻イミトのレビュー・感想・評価

商船テナシチー(1934年製作の映画)
3.5
1930年代フランス詩的リアリズムのビッグ5に数えられるジュリアン・デュヴィヴィエ監督の初期作。1934年(昭和9年)キネマ旬報ベスト・テン外国映画1位。シャルル・ヴィルドラックの代表的名作戯曲の映画化で作者も脚本参加。フランス・セーヌ川河口の港町ル・アーヴルでロケ。商船の名前テナシチー(TENACITY)とは英語で「不屈」の意味。

失業した若者バスチアンとセガールがパリを棄てカナダへ渡航することを決心する。親友の二人だったが港町ル・アーブルで商船シナシチー号の出航を待つ間に宿屋の娘と三角関係になってしまう。。。

デュヴィヴィエ監督の作風を “ペシミスティック(悲観・厭世)”と評する向きがあるようだが、正しくは “センチメンタル”(感傷)”だ。本作はまるで十代のようなセンチメンタリズムが貫かれていて、それが戦前の日本人の琴線に触れたのが興味深い。監督の作品は3年後の「舞踏会の手帖」(1937)で再びキネ旬ベストテン第1位、「望郷」(1937)で3度目のキネ旬ベストテン第1位に輝いている(当時デュヴィヴィエ人気世界一だったのが日本)。

現在の自分からするとストーリーも演出もセンチすぎて腰が引けてしまうのだが、本作の風景描写には眼を見張った。港の様子やシナシチー号周辺の撮影が凝りまくっていて映像はとても楽しめた。港で役者もロケしているのに、わざわざ港の風景をスクリーンに投影して役者の背景にするというトリッキーな幻想表現も用いていた。

個人的にデュヴィヴィエ監督の映画は“詩的風景論”の作品だと思っていて、初期の本作から既に発揮されている。これだけ街の風景で語ろうとする監督は本作以前では思い当たらないし、以降で思いつくのはアントニオーニ監督とタルコフスキー監督ぐらいかもしれない。好みなので引き続きデュヴィヴィエ作品を追いかけてみたい。

P.S
DVD画質がかなり悪かった。元フィルムが残っていないという情報もある。あと、本作の主演、セガール役の俳優の人相があまり良くなかった。個人的な好みの問題かもしれないが。
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